
「生活者の不安と、医療者の負担をなくす」。掲げたミッションの具現化に執着し続ける、ファストドクター水野敬志の愚直な日々。
2024.08.01 公開
2024.08.01 公開
企業名:ファストドクター株式会社
設立:2016年
事業内容:医療プラットフォーム「ファストドクター」の運営など
RPO事業代表
コロナ禍の活躍により「救急往診」の文化を日本に広めたファストドクターは、その後オンライン診療や在宅医療支援の領域に事業を広げ、テック分野への投資を進めることで、幅広い医療支援を行うス タートアップへと成長。医療DX×オペレーションというコアコンピタンスを元に、2040年問題によって不足する医療リソースと増大する社会保障負担の課題や医療現場の生産性の向上に徹底的に向き合いリードしていきます。私たちの子供たち世代が暮らしていく日本を、どこに住んでも格差なく豊かで 質の高い医療が受けられる世界を築いていこうとするファストドクターを応援します。
京都大学大学院農学研究科修了後、Booz&Company(現PwC Strategy&)に就職。その後、楽天に転職しました。そこでは主に、戦略立案・実行、組織マネジメントの経験を積みました。
当時、メルカリなどが注目を集めている時期でした。テック企業と呼ばれる会社が技術力とアイデアを武器に社会課題の解決に取り組んでいるのを見て、私もチャレンジしたいと思い楽天を飛び出したんです。
その時に出会ったのが、共同代表の菊池です。彼は医師として救急医療に携わっていて、救急医療が持つさまざまな課題を解決するために出会った1年前から救急往診サービスを立ち上げていました。そこで私も「テクノロジーを活用して世の中を良くするための一翼を担いたい」と参画することにしたんです。
感じてはいましたが、想像以上に労働集約型の世界だと思いました。時間をかけて、一人ひとりの患者さんと向き合っている。それ自体は悪いことではないのですが、業務の効率化や生産性向上に取り組むことで、より本質的な価値を高めていけるのではないかと考えました。
医療サービスを受ける側にとっては、夜間や休日であっても困ったときに対応してもらえることが大切だと思うんです。一方で、医師など医療サービスを提供する側は、体力的にも、精神的にも、ある程度の余裕を持って患者さんを受け入れられることが重要です。これらのバランスが取れていることがポイントで、どちらかに負荷が寄ってしまうと持続的な医療サービスは実現しない。そのため、「生活者の不安と、医療者の負担をなくす」というミッションを掲げました。
医療法人と間違われることが多いのですが、私たちはテクノロジーを駆使して医療を支援するテック企業です。
「ファストドクター」というプラットフォームを介してサービスを提供しています。多くの医師や看護師に登録いただいており、生活者側には医療サービスを受けたいときにファストドクターにアクセスしてもらいます。
最初に立ち上げたのは、救急往診事業です。「往診」はこれまで、かかりつけ医が付き合いの長い在宅患者さんのところに診察に行くものでした。しかし、かかりつけ医がいなくても、急に体調を崩すことがありますし、夜間や休日といった診療時間外には極端に医療につながりづらくなってしまう。そのため、初診でも救急往診が受けられるようにしました。
やってみたものの、最初は大変でした。まず、患者さんの家がわからない。教えてもらった住所情報だけでご自宅にたどり着くというのが実は難しかったんです。他にも診察後の会計は現金かカード決済か、など対応できる仕組みをつくるのが大変でしたね。また、 そもそも初診なので、これまでの病歴やアレルギーの有無についてもお聞きする必要がありました。どうしても時間がかかるため、生産性向上のための工夫や改善をくり返していきました。
ベンチャーキャピタルの力も借りて、システム投資も進めました。往診に向かう際、最も効率的なルートを検索できるシステムをつくったり。看護師が一件ずつ電話で行なっていた事前の問診を、アプリ上で回答できるようにしたり。テクノロジーを使って、一つずつ非効率や不便を改善していき、徐々に事業がスケールしていきました。その頃、コロナ禍が来たんです。
コロナをきっかけに大きな変化がありました。発熱して診察を受けたくても、多くの診療所は感染症対策が十分に整っていないため、発熱患者を受け入れることが難しい状況でした。さらに病院では対応する重症度を限っていたため、「今は来ないでください」と言われてしまいます。こういう状況を少しでも解消しようと、各地域の自治体との連携が急速に進みました。
大きかったのは医師会との連携です。日中は医師会が中心になって往診をして、夜間はファストドクター が往診をする。時間帯によって役割分担することで、多くの患者さんの不安を解消することができたと思っています。
2022年には小池都知事から感謝状をいただきました。その際、「これからの時代はこれ(救急往診サービスの一般化)を普通にできるような世の中にすべきですよね。今後の医療業界の課題に備えてください。期待しています」とエールもいただきました。
というのも、高齢化が急進する日本では、2040年には再び医療崩壊がおきることが懸念されているのです。団塊の世代が後期高齢者となり、医療サービスを必要とする人の数が最大化すると予測されているためです。このままでは日本が世界に誇るべき社会保障制度が機能しなくなる懸念があります。「自分たちにできることを徹底的にやろう」と気持ちを新たにしました。