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日本とグローバルの間にあるデータ管理の差。この差の解消が日本の競争力向上につながる。そう考えた久田の「新しいプロダクト」の物語。

日本とグローバルの間にあるデータ管理の差。この差の解消が日本の競争力向上につながる。そう考えた久田の「新しいプロダクト」の物語。

SaaSFinovo経営管理システム柔軟性顧客視点プロダクト開発DX

2025.05.02 公開

会社概要 - company profile

企業名:株式会社Finovo

設立:2021

事業内容:バックオフィス業務に関するソフトウェアの開発・提供

推薦理由 - Reason for recommendation
菅谷俊雄

菅谷俊雄

株式会社QunaSys CFO

Finovoは、経営管理における“柔軟性”を追求し、バックオフィスの可能性を大きく広げているスタートアップです。単なる効率化ではなく、ユーザーが本当に見たい形でデータを活用し、具体的なアクションにつなげる。その徹底した顧客視点から生まれたプロダクトには、経理・財務の在り方を変える力があると感じています。久田さんの静かな情熱が生み出す世界観に共感し、これから広がっていく未来がとても楽しみです。

これまでのキャリアと創業の経緯について

─────まず最初に、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。


会社員の家庭に生まれて、普通に幼少期を過ごしていました。小さな頃から何か特別な才能があったわけではありませんが、強いて言えば何かをつくることが好きだったと思います。中学のときは数学の問題を自分でつくったりしていましたし、高校ではバンドを組んでいたのですがカバーではなくてオリジナルの曲をつくったりしていました。「何もないところから、オリジナルの何かをつくる」ことが、いま振り返ってみれば好きだったなと思います。


大学に進学し、大学3年生のときに公認会計士の資格を取りました。公認会計士の資格を持っていたらそのまま監査法人に就職できるみたいな時代だったので、いわゆる就職活動もせず、大学生活の残り1年間を使って海外に行ったりしていました。海外に行ってみると、これまで知らなかったことにたくさん出会えて、「これまで自分が見ていた世界がいかに狭かったか」みたいなことを感じることができました。


その後社会に出て、監査法人に3年、その後投資銀行で4年という形でキャリアを積んで行きます。監査法人時代に関しては、いわゆる会計監査と言われる少し堅い業務を担当していました。具体的には、経理財務部の方々が出した決算書などを、公開される前にチェックする仕事です。あるいは、大手企業様の内部統制と言われる部分に携わり、業務フローをチェックしたり、潜んでいるリスクを特定していくといったことをしていました。


その後、バークレイズ証券という投資銀行に転職し、M&Aのアドバイザリーをメインで担当していました。これは、たとえば日本の企業が「海外の事業を買いたい」とか「自分の事業を海外に売りたい」というときにサポートをする仕事で、ちょっと専門的な言葉ではクロスボーダーと言われるような案件にずっと従事していたんです。


バークレイズ証券には4年勤めていましたが、途中でロンドンのオフィスに行くことになりました。ロンドンでの配属先はセルサイドM&Aチームです。これは自社の部門や子会社を売る企業に対するM&Aアドバイザリーを専門にしているチームで、全然日本人がいない組織でM&Aのアドバイザーを2〜3件やっていたという経歴になります。


現在の事業につながる部分としては、経理財務部や経営企画部の方々とずっと仕事をしてきたこと。そして、いわゆる大手企業様とやり取りを重ねてきたこと。こういうところがキャリアの特徴だと思います。


─────監査法人と投資銀行時代について、どのようなご実績を残してきたのかや、仕事を通して学んだことについて教えてください。


監査法人時代は、普通の実績だったと思います。特別良くもなく、かといって悪くもなくという感じで。新卒で入社して、まだ仕事の進め方もちゃんとわかっていなかったので、監査法人では社会のルールをイチから教えてもらった印象です。


ただ、バークレイズ証券のときは、割と評価をしていただけたと思います。ロンドンに行けたということもありますし、年に一度の評価会議ではアジアで上位3人に入ることがあったので。


仕事を通じて得られた学びという観点では、バークレイズ証券に転職した時のことでしょうか。まず「もっとお客様の視点で考えろ!」と、めちゃくちゃ怒られたんです(苦笑)。


監査法人の仕事は、いわゆる規制業種なので、お客様がいることが当たり前だったんです。その状態で投資銀行に転職したので、私の言動にもしかしたら顧客のことを想う姿勢が足りなかったのかもしれません。まずその部分を強く指摘されました。


提案資料をつくったときに上司にチェックをしてもらうんですけど、「本当にこの資料が役に立つと思うか?」みたいなフィードバックで。多くの人には当たり前のことだと思いますが、当時の私には結構衝撃的で、目が覚めるような経験でした。


このときの学びは現在のプロダクトづくりにも通じています。「このシステムでこういうことができたら助かる」といったお客様の気持ちは絶対にありますし、その部分をどれだけリアルにイメージして、いかにすくい上げられるかが重要だと思っているので。そのため、投資銀行で最初に指摘してもらえて、本当に感謝しています。


─────投資銀行の後に起業されたと思うのですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?


そうですね。順を追ってお伝えすると、そもそも学生の頃は、自分で起業するなんて考えたこともなかったんです。ただ、監査法人や投資銀行での仕事を通じて自負していたのは、いわゆる会計や会計を含む財務戦略といった領域においては、かなりの経験を積むことができたことです。


その上で顧客の業務を見ていると、「なぜこんなに手間がかかる作業をExcelでやっているのか?」とか、「なぜデータの加工や確認にこんなに大きな時間を投下しているのか?」ということが気になるようになってきました。そしてそれが、「果たしてこれでいいのだろうか?」という問題意識になっていったんです。


個人的な話ですが、私は「時間を大切にしたい」と思っていまして、やっぱり時間は有限なので、できるだけ付加価値が出せることに使いたいタイプなんです。そんな私からすると、少し乱暴な言い方で恐縮ですが、「この作業に多くの時間を使うのはもったいない」という感覚がありました。もちろん、何らかの理由があってそのような状況になっているはずなので、それであればその「理由」の部分をどうにか改善できないかと考えたんです。


これが起業した理由のひとつで、もうひとつのきっかけは投資銀行時代に担当した案件で感じたことです。


バークレイズ証券でM&Aのアドバイザリーをしていたときに、ある日本企業の案件を担当しました。その会社は日本を代表するメーカーで、自社の一部の事業を海外の会社に売りたいという案件でした。


そこで買主を探すのですが、候補となる海外の会社からは、日本メーカーのさまざまなデータ、たとえばある製品の利益率や地域別の収益内訳などを求められるんです。事業を買うかどうか検討するので、業績を見たいから数字を出してくれということなんですが、日本のメーカーに提出を依頼してもデータがないんですよ。


ある意味、これまで積み上げてきたブランドがあるので、細かいデータを気にしなくても製品が売れていたからだと思うのですが、買主になるような海外のプレーヤーからすれば、「データがない?なぜ?」と、当然びっくりしていました。


とはいえ、データがないならつくるしかないので、その時は私たちが夜な夜なつくったのですが、この経験は私にとっても結構大きな衝撃でした。


この経験を通してわかったことは、たとえばメーカーで言えば製品の質は日本のほうが高いけれども、事業に関わるデータの管理は海外プレーヤーのほうが圧倒的にしっかりしているということです。そのため、日本企業が世界で戦うことを想定したときに、データの把握や数値管理が苦手だから、国際的な競争において弱い立場になってしまっている。裏を返せば、「ここが強くなれば日本企業はもっとグローバルで戦えるはず」という仮説を持つようになりました。そして、日本を代表するメーカーでこの状況なので、日本の90%以上の企業も似たような状況だろう。つまり、マーケットがあるだろうと考え、事業にすれば勝てる領域だ」という考えに至ったんです。


そこで投資銀行を退職し、自分でプロダクトをつくったのですが、そのときは現在のプロダクトとは違うものでした。お客様が会計データを入れれば、こちらで自動集計してレポートも作成してお出しするサービスだったんです。


ある程度プロダクトができて、投資家やベンチャーキャピタル向けのピッチも終え、お客様の前に出したのですが、全然反応が良くなくて。「きれいにデータが出てきて良さそうだけど、お金を払ってまで使いたいとは思わない」みたいなフィードバックでした。


そのときは、あくまでも自分がつくりたいものをプロダクトにしたというのが大きくて、失敗に終わってしまったんです。そこで改めて出直そうと考え、お金を集めて、2021年の11月に立ち上げたのが株式会社Finovoです。



「お客様の視点」を手に入れるために繰り返したインタビュー。その結果、これまでにない柔軟性を備えたプロダクトに

─────Finovoという社名にはどのような想いが込められているのでしょうか?


これは「Finance(金融・財務)」と「Nova(新星)」を組み合わせたもので、誰も見たことのない新しいサービスを提供したいという想いが込められています。


過去の失敗を踏まえ、新しいサービスを生み出すためにも、会社を立ち上げてからの8ヶ月くらいはプロダクトづくりに一切手をつけませんでした。代わりに、ひたすらインタビューを繰り返していったんです。企業の経理財務部や経営企画室の方々にコンタクトを取り、最終的には70〜100社くらいにインタビューしました。このプロセスを踏んだことが、いまとなってはすごく大きな価値になっていると思っています。


インタビューでわかったのは、現場の皆さんは非常に強いこだわりを持っていることです。経理部長さんや経営企画室長さんがインタビュー対象になるのですが、会社や人によって最終的に見たいアウトプットの形が全然違うんですよ。「これまで見ていたのと同じ形式でデータが見たい」という方もいれば、「もっと小さな粒度で見たい」という方もいました。加えて、たとえば経理部の方からは「業績の数字の横に人員数の推移を並べたい」といった要望をもらったりもしました。そこで私は、プロダクトを使う方々のこだわりの強さや種類の多さがポイントだと思ったんです。


最初につくったプロダクトは、固定のフォーマットで出力される仕様でした。結果的に、それではユーザーの心に刺さりませんでした。インタビューでわかったことは、担当している事業や立場によって、ときにはユーザー個人の好みによって、見たい形が異なるということで、これが最大の発見でした。


ポイントは、いかに柔軟にプロダクトが設計できるか。プロダクトがノーコードで、ユーザーが見たい形でデータを出力できる。そういうソフトウェアじゃなければ、この領域で展開することが難しいと明確にわかったんです。


そこからは「柔軟性」をプロダクトの軸に置いて、開発を進めていきました。経営管理や業績管理など市場にはさまざまなサービスがありますが、私たちの『Finovo』はこの柔軟性が一番の差別化ポイントだと考えています。


このようなデータは、集計して終わり、出力して終わりではなく、活用されないと意味がありません。経営の意思決定や戦略の検討などに活用されることで初めて価値を持ちます。活用してもらうためにも、大きな意思決定をする方々の頭にスッと入ってくるインターフェースであることが重要です。それは言い換えると、意思決定をする方々が見慣れている形式であったり、見たい粒度で出力できることが大切なんです。


私たちは自分たちのプロダクトを「会計データプラットフォーム」と呼んでいますが、想定しているユーザーは経理財務部や経営企画室の方々です。どのように日常業務を進めているかはもちろん、データを見るときのシチュエーションを想像し、プロダクトに反映しています。どういう状況でこのプロダクトを使うのか、どれくらいのリードタイムで、どういうアウトプットを出したいのかなどをイメージしながらつくっていますし、ユーザーの社内の立ち位置だったり、「成長事業のデータを見るときはこの形式で見たいだろう」とか「立て直しが必要な事業の場合はこうだろう」など、さまざまなパターンを想定しています。


ユーザーの多様なこだわりに対応できるようにしていることに加え、最近AIのデータ分析機能も追加しました。出力したデータはすべてAIがレビューしますし、AIによるレポーティングも可能です。データを活用してもらえる良いプロダクトになっていると思います。


─────柔軟性がポイントになることは分かったのですが、複数の経営管理システムがあるなかで、先行するプレーヤーが今からノーコードの機能を追加して同様の機能を作り込むことは難しいものでしょうか?


すでにデータベースが決まっているので、機能追加での対応はなかなか難しいのではないかというのが私の考えです。出力形式は選べるもののパターンに制限があるものが多い印象です。


また、投入できるデータにも決まりがあるものが多いです。会計データはわりと柔軟に取り込むことができますが、それ以外の、たとえばKPIのデータを入れようとすると形式が固定されているなど、サービスを利用する際に制限があると認識しています。


私たちは後発の強みを最大限に活かして、既存のサービスでは体験できないような「柔軟性」にこだわってプロダクトをつくってきました。お客様にも、「ほかのサービスとの違いは何ですか?」とよく聞かれますが、必ず「柔軟性です」と答えています。


ちなみに、最近はリプレイス案件が多くなっています。その理由は、「ユーザーが一巡し、さらに使い勝手の良いものを探し始めたから」だと思います。


これは私たちの考えですが、経営管理システムや業績管理システムのプレーヤーの多くは、2019年ごろに出てきたと思っています。そこからサービスを売り出し始めたのが2020年ごろ。そして、市場に普及し始めたのが2022年ごろ。3年契約を結んでいると、ちょうど一回転して2025年が契約更新のタイミングなんです。


サービスを使ってみて、やりたいことができている会社もあれば、「ちょっとしんどいぞ」という会社もあると思います。「ちょっとしんどいぞ」を言語化すると、「予実管理だけならこれでいいけど、追加でKPIも一緒に見たい」とか、「予実の裏にある細かい数値も把握したい」というものです。私たちのプロダクトはこういった細かい現場のニーズにも対応できるようにつくっているので、契約更新の際にリプレイスの候補として挙がってきていると認識しています。


『Finovo』を使って、予実管理だけじゃなく、KPI管理をしているプライム上場のお客様もいらっしゃいます。細かい原価計算に使っているお客様もいらっしゃいます。私たちは自分たちのプロダクトを「会計データプラットフォーム」と呼んでいますが、これは会計に関わるあらゆるデータのプラットフォームとして使っていただきたいからです。


お客様の視点で考えると、予実管理はAというシステムを使い、原価管理はB、KPI管理はCという具合に、目的に合わせてソフトウェアを使い分ける意思決定はしたくないはずです。ひとつのプロダクトの中で、会計に関わるさまざまなデータを管理できれば、それに越したことはないはずですから。そう考えたときに、プロダクトに求められる最も大切な要件は「柔軟性」であり、そこから軸足をブラさずにつくり込んだので、後発であってもマーケットから求められるプロダクトになったのだと思います。


─────なるほど。プロダクトの強みである「柔軟性」について、さらに詳しく教えていただけますか?

※本記事の内容はすべてインタビュー当時のものであり、現在とは異なる場合があります。 予めご了承ください。