
2016年に事業を開始し、いまでは全国の薬局20%超が導入。業界を巻き込み、構造的な課題解決に挑戦するカケハシ中川は、 何のために働くのか。
2025.09.12 公開
2025.09.12 公開
企業名:株式会社カケハシ
設立:2015年
事業内容:医療関連サービスの開発・提供
グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社 プリンシパル
カケハシが大きな兵站を手にして非連続な成長を実現するステージに入りました。 SaaSの会社とみられることもありますが、当初から医療を改善するプラットフォームになるという信念を掲げ、経営力と実績を積み上げてきました。同時多発的にバリューチェーンを拡大し局所戦、大局戦のいずれも勝つ、そんなリーダーシップチームを更に強化していきます。
初めて起業したのは、学生時代です。音楽ストリーミングサービスを考えていましたが、業界構造の壁に苦戦。 並行して行っていた就職活動でマッキンゼー・アンド・カンパニーとご縁があり、ギリギリまで悩んだ結果、音楽ビジネスを諦めて就職することに決めました。
新しい価値を生み出し、少しでも社会が良くなる、誰かの役に立って喜んでもらえる、そういう瞬間にやりがいを感じるんです。
モノづくりやハイテク産業分野を対象に、調達・製造・開発の最適化や企業パートナーシップと組織融合をサポートする統合マネジメントに従事していました。経営そのものに深く関与するものが多く、イギリスやインド、米国でプロジェクトに参画していました。
マネージャーとして担当した案件では数百億円からそれを超える単位のコスト削減に貢献したこともあります。クライアントの評価は高く、私自身も大きな達成感を得ることができました。
そして、すでにお金持ちのマネジメントの方々の報酬をさらに引き上げることになった。資本主義のメカニズムを加速させる装置としてコンサルティングに疑問を感じるようになりました。この事実を認識したときに、「自分がやっていることは、世の中にとって本当に価値があることなのだろうか?」という疑問を持つようになりました。
数字を大きく動かすことや、それによって経済的な成功を手にすることは素晴らしいことだと思っています。しかし、自分は、社会全体のためになることにチャレンジしたい。みんなが困っていることに真正面から向き合い、その課題解決に取り組みたい。その考えが大きくなり自分で事業を立ち上げることにしたんです。
医療が社会課題のど真ん中だからです。日本の少子高齢化は世界に類をみない速度で進んでおり、医療を含めた社会保障制度は大きな岐路に直面していると考えていました。医療の課題の根本には国の財政構造の課題があり、それに起因するさまざまな問題が複雑に絡み合っています。非常に難しいテーマですが、これからの世の中にとって本当に重要な分野であるからこそ、そこに飛び込んでいくことには大きな意義があると考えました。
カケハシの共同創業者である中尾と出会ったものその頃です。彼は大手製薬会社でMRをしていて、医療、特に薬局という最前線で現場で起きていることに強い課題感を持っていました。お互いに「社会課題の解決に取り組みたい」という志を持っていることがわかり、目指すべき方向性が一致しているということで「一緒にやってみよう」という話になったんです。
まず薬局や薬剤師さんへのインタビューを徹底的に行いました。新卒から大ベテランの方まで、400人ほどの薬剤師の方々にご協力いただき、できるだけ多角的に現状を理解していきました。
特に印象的だったのは、ある若手の薬剤師さんの言葉です。「患者さんに寄り添い、患者さんの健康に貢献したいと思ってこの仕事を始めたけれど、実情は違った」というものでした。
詳しく話を聞いてみると、「何のためにがんばっているのかわからなくなってきた」と言うのです。一生懸命に患者さんのことを考えて処方の内容をチェックしても、なかなか患者さんには伝わりません。なぜ待たされるのかと怒られる日々。チーム医療に貢献することよりも、「間違えずに早く薬を渡すこと」が重視されてしまう現実に、意欲を失ってしまっていました。
せっかく素晴らしい知識と想いを持っている方々が沢山いるのに、それが活かされないのはあまりにも悲しい。こういう現状を何としても変えていきたい、そう思うようになりました。
事業戦略を考えるにあたっては、そこで日本の法規制などを調べながら、規制緩和のタイミングや診療報酬制度の仕組みを整理していきました。並行して海外の医療系スタートアップの動向や市場環境についても調べていき、日本の医療業界の構造を正しく把握しながら、患者さんの医療体験をより良く変えていくための事業モデルや戦略づくりを進めていきました。
そうです。私たちのなかで『Musubi』は、日本の医療全体に大きな変革をもたらすための第一歩でした。
薬剤師の皆さんへのヒアリングでは、ほぼ全員が「薬歴を書くのがとにかく大変」と回答していました。薬歴とは、調剤後3年間保存しなければいけないもので、患者さんの服薬状況などを記録し、適切な服薬指導のために活用するものです。
まずは薬歴に関連するソリューションに集中し、プロダクトづくりを進めていきました。タイミングを見て資金調達をしながら、プロダクトの磨き込みを続けていき、見通しが立ったのは正式版リリースから半年後の2018年に入ってからですね。『Musubi』が順調に稼働し始めました。その頃に、やっと会社として第一歩を踏み出せた気がしています。
たとえば、患者フォローシステム『Pocket Musubi』や、薬局経営”見える化”クラウド『Musubi Insight』。医薬品在庫管理・発注システム『Musubi AI在庫管理』などです。
加えて、医療用医薬品二次流通サービス『Pharmarket』を提供する株式会社Pharmarket 、保険調剤薬局むけPOSレジシステム『Plat’s(プラッツ)』を提供する株式会社コード・アール、レセコン(※)を開発しているノアメディカル株式会社。この3社にM&Aでグループに入っていただきました。
(※)レセコン:レセプト(診療報酬明細書)を作成するためのコンピュータのこと
これにより、薬局で使われるシステムをフルレンジでカバーできるようになりました。個人的には、「やっとここまで来た」という感じです。
『Musubi』は薬歴作成をはじめとする「対物業務の効率化」と患者さんに向き合う「対人業務の拡大」を可能にするシステムです。タッチ機能付きの端末画面を見ながら服薬指導ができ、その内容が自動で薬歴のドラフトとして残ります。患者さんとのコミュニケーションと薬歴記入を同時に行なうことができるので、薬剤師の皆さんの業務負担を大幅に削減するとともに、これまで以上に患者さんと向き合って仕事ができるようになります。
現場の業務改善が進めば、そこから先のフェーズにある課題にアプローチすることができます。たとえば、薬を処方されても適切な服薬をしなければ効果が見込めないので、そのためのフォローをする仕組みが必要になります。『Pocket Musubi』はそのためのフォローアップシステムです。
社 内の薬剤師メンバーが薬剤ごとの確認項目を作成しており、患者さんごとに最適なタイミングで最適な質問が自動で送付される仕組みとなっています。仮に副作用が出ていたら早期にキャッチアップできますし、すぐに薬剤師さんが介入して問題を解決してくれます。
薬の飲み方を間違えている場合や、副作用が出ている場合など、課題の中身はさまざまで、重たいケースも軽いケースもありますが、『Pocket Musubi』でフォローアップをすることで、早期に課題を見つけ、その対応ができます。現在、300万人以上のユーザーさんにご利用いただき、1,000万人を超えるところまで引き上げていきたいと思っています。世の中を良くしていくという観点においては、もっと多くの方に使っていただきたいサービスです。