
監査法 人として、コーポレート責任者として、取締役会に潜む多くの課題に着目した中村。目指すのは「企業の最高意思決定機関」のアップデート。
2025.05.26 公開
2025.05.26 公開
企業名:ミチビク株式会社
設立:2021年
事業内容:michibikuの企画・開発・運営・販売
株式会社Finovo 代表取締役CEO
代表の中村さんは、高卒公認会計士という異色の経歴を持ち、我々Finovoの創業時から色々とアドバイスしてくださるGive精神の高い起業家です。 中村さん率いるミチビクは、昨今注目されているコーポレートガバナンスに取り組む スタートアップで、取締役会DXプラットフォームを提供しています。前職で日本企業の取締役会の紙文化に触れた経験がある私にとっては非常に共感するサービスであり、そして、まだまだこれから大きくなる市場だと思いますので、ミチビクがその市場を牽引する未来を見届けたいと思います!
愛知県の出身で、中学生くらいのときから「将来は社長になりたい」と考えていました。当時は「こういう事業がしたい」という想いはなくて、「自由そうだから」といった漠然とした理由でした。
中学2年生のときに、母親がくも膜下出血で倒れて入院しました。いまは回復して元気なのですが、そのときは子どもながらに「何となくではダメだ。この先の人生のことをちゃんと考えないとやばいぞ」と思ったんです。そこで、まず高校は卒業しようと考え、将来の仕事につながるような学校が良いと思い、豊田工業高校(現:豊田工科高校)に進学しました。
卒業後、「まずは働こう」と考え、売上数千億円のトヨタ系企業に就職しました。ボディーパーツのメーカーで、大きな車のボディーパーツ一式を溶接したり板金したり、そういう仕事をしていました。
働き始めて何年かたったときに、人事評価に疑問を持つようになってきたんです。現在はどうなっているのか詳細はわからないのですが、当時は年齢と学歴が評価のパラメーターになっていて、「高卒の人は何歳になるとこのグレードに上がります」というのが決まっていました。私は高校を卒業して18歳で就職したのですが、その基準に当てはめると次のグレードに上がれるのが24歳くらいだったんです。
入社したばかりのころは、「まずは仕事を覚えるぞ!」とがんばっていたのですが、経験を重ね、できることが増えていくと、「あれ?すでに次のグレードの仕事してるんじゃない?」と思うようになってきました。ただ、会社の規則では学歴と年齢で昇進・昇格のタイミングがしっかり決まっているので、あと数年は同じ待遇が続き、より大きなチャレンジはできません。それで「ああ、これはちょっとしんどいな」と思うようになってきたんです。
中学生のときに思い描いていた「自由に仕事をしている自分」を再びイメージするようになってきて、自分次第でキャリアアップできる仕事はないかと考えるようになりました。
どのような仕事があるのかをインターネットで探そうと、「資格」で検索したんです。いま思うとすごく安易ですが、、、(笑)。検索の結果、医者や弁護士、税理士、獣医、歯科医など、いろいろと出てきました。試しに弁護士を深掘りしていくと、資格を取得するのに少なく見積もっても6年の時間と1,500万円のお金がかかることがわかりました。「これはちょっと現実的じゃないな」ということで、今度は税理士を深掘りしていったんです。
税理士関連のウェブサイトをいろいろと見ていると、リターゲティング広告が表示されるようになりました。そのなかのひとつに公認会計士の広告を見つけたんです。そこで会計士を調べてみたら、この資格を取得すれば、税理士や行政書士、ファイナンシャルプランナー1級もついてくることがわかりました。「なんだかすごくお得な資格だな」と思って(笑)、さらに詳しく調べていきました。
わかったことは、会計士は数字を駆使してビジネスの最前線で活躍する仕事で、経営者の近くで働けるということ。加えて、「受験資格の制限なし」ということで完全実力主義であること。「これはいい!自分に合っていそう!」と思い、チャレンジすることに決めました。
難易度や合格率については実はちゃんと調べていなくて(苦笑)。とりあえず資格の専門学校に説明を聞きにいきました。「簡単ではないですが、ちゃんと勉強すれば不可能ではありません。会計士向けのコースはすでに開講されていますが、まだ間に合いますよ」と説明を受けて、「じゃあ申し込みます」とその場で申し込みました。
そこから1年4ヶ月くらい本気で勉強しました。トータルで4,000時間くらいですね。1日10時間〜12時間、長ければ14時間くらい勉強して、日曜日が休めるか、休めないかみたいな感じでした。休みを取らないと学習効率が落ちてしまう。でも、休みすぎると不安になる。だからできるだけ勉強時間を確保しよう。そんな感じでがんばって勉強して、1発で合格できたんです。
公認会計士の論文試験に合格し、仕事をしようとなったときに、どこに就職するのかを考えました。当時はリーマンショックのあとで、「会計士バブルがはじけた」と言われているタイミングでした。もともと監査法人に行く気はあまりなく、コンサルに就職するか、自分で起業するか、どちらかを考えていたのですが、「この会計士の冬の時代に大手の監査法人に入所できたら、それはそれでおもしろい経験ができるんじゃないか」と考えを変えました。
それで、大手の監査法人の中でも自由な社風が自分に合いそうな「あらた監査法人(現:PwC Japan有限責任監 査法人)」を受けることにしました。結果、採用枠が数人と、非常に少ない中でしたが、無事に採用され、名古屋事務所に配属になりました。
土地柄もあり、クライアントの多くはトヨタ自動車さん系列の企業でした。私はもともと系列企業で働いていたこともあるので、そういった企業様を担当させていただくことになり、財務監査や内部統制監査などを経験していきました。
財務諸表監査と内部統制監査をメインに行ないながら、一部コンサルティングにも携わっていました。監査業務の中で、クライアントにおける意思決定が適切に行なわれているのかを細かくチェックする仕事もありました。具体的には、取締役会や経営会議、監査役会など重要会議の議事録をすべて確認していくんです。
あと、ヘビーなところでいくと、顧客に対して減損の交渉などもしていました。「これは資産性がないので減損してください」などと監査人としてどうしても伝えなければならないシーンがあるのですが、「資産性はある。なぜPLに多額の損を載せなくてはいけないのか?」という反応をいただくこともありました。監査人としての整理を伝えても、スムーズに行くことはないのですが、丁寧な説明やコミュニケーションで最終的には合意するところまで持っていきます。減損関係は大変でしたね。
基本的には、感謝されない仕事です(苦笑)。間違いがないか細かくチェックして、指摘する役割なので、そう思われても仕方ないのですが。ただ、社会的に重要な役割を担っていて、それなりのインパクトを出せていると思っていたのですが、もっと直接的に世の中に貢献している実感を得たいなという気持ちはありました。また、裁量を持って自分の力でどんどん仕事をしていきたいという想いも出てきて、スタートアップに転職することにしたんです。
社会貢献性が高いビジネスが良いと考えていたので、働く人を支援するサービスを展開している株式会社OKANに入社しました。当時はアーリーフェーズで、30人くらいの組織規模だったと思います。そこから100人くらいの規模になるまでのグロース期をご一緒させていただきました。OKANでは、コーポレート部門の立ち上げや資金調達、IPO準備などに加え、取締役会の事務局も担当していました。その他にも必要なことであれば、領域を問わず積極的に関わる少し変わったコーポレートだったと思います(笑)。
その後、自分の力でどこまでできるのかを試そうと思い、独立してIPOの支援や事業再生などのコンサル業を始めました。個人でお手伝いをしたり、ときには知り合いの方をアサインして一緒に支援をしたり、こじんまりした形でビジネスをするということを経験しました。
そうですね。いろいろ経験してきて、どの仕事もおもしろかったのですが、自分の中では「これ!」というものにまだ出会えていない感覚でした。
あと、独立したあとに少しゆとりを感じ始めたんです。最初に就職したトヨタ系の工場でも、監査法人時代も、OKANでがんばっていたときも、良いか悪いかは別にして結構ハードに働いてきました。でも、独立したあとは仕事に使う時間がこれまでと比べて短くなったり、その一方でお金の面では少し余裕が出てきたりして、「このままで大丈夫か?成長が止まってるんじゃないか?」と漠然とした不安を感じるようになりました。「人生の中でたくさんの時間を仕事に使うはずなのに、本当にこれでいいんだっけ?」と思うようになり、自分の力で何か大きなことにチャレンジしたいと考えるようになったんです。
それからビジネスの種を探し始めました。監査業務やコーポレートの立ち上げなどを通じて、私は従来のバックオフィス業務の非効率な部分に課題を感じていたのですが、ちょうどその頃、世の中はコロナ禍に突入したくらいのタイミングで、いろんなことが変わり始めていました。実際に、会計や給与計算、法務業務などはさまざまなサービスの登場でどんどん便利になっていく。しかし、その中で、取締役会などの重要会議の部分だけは、アップデートが進んでいないことに気がついたんです。
私自身、取締役会の事務局業務や会議運営などを経験していたこともあり、多くのペインを感じている領域でした。取締役の方々は報酬が高く、取締役会はいわば「投資が一番大きい会議体」です。そんな取締役会には、多くのムダが潜んでいると思っていました。監査法人時代には多くのクライアントの議事録を確認していましたが、形式的・儀式的な議題も多く、重要会議の時間の使い方にもったいなさを感じることもありました。
企業の最も重要な意思決定機関である取締役会のあり方を変える。そんなサービスを提供できれば、世の中をいまよりも良い状態に持っていけるかもしれない。そう考えて、ミチビク株式会社を創業したんです。
多いのが、業務執行の部分に多くの時間を使ってしまう状態です。具体的には、月次決算の報告があり、販売計画や営業計画の進捗といったトップラインの話、そして「設備を買う・買わない」だったり「広告投資をする・しない」といった稟議。そこに、人事異動や規定変更などの話をして、大体終わってしまうというのが現状でした。
もちろん、すべて無駄な議題ではないのですが、業務執行の話に終始するのではなく、経営戦略など会社の未来を創っていくような議案を取り扱うべきだと考えます。取締役会には社外取締役の方も参加するので、社外取締役の知見も活かして、企業をより成長させていくべきだと思うんです。
業務執行に関する細かい部分は、社外取締役の方にとっては解像度がそこまで高くない部分だと思うので、執行サイドで意思決定をして進めていく方がスピード感を持って進められます。
私が監査法人で働いていた10年ほど前も、似たような状況でした。2021年にミチビクを創業し、改めて取締役会の時間の使い方を調査したのですが、10年前とあまり変わっていません。つまり、世の中はどんどん変化していますが、取締役会そのものは大きくアップデートされていないんです。
デジタル化が進み、AIが出てきて、テクノロジーも活用しながら「どうやって競争に勝っていくか」をどの企業様も必死に考えているところだと思います。働き方や価値観も多様化していますから、5年後や10年後を見据えて「ど うやって会社を強くしていくか」も大切な議題です。それらを議論するための意思決定機関が取締役会ですが、そのあり方を見直し、より良い方向へ変化を支援するのが、私たちが提供できる価値だと思っています。
ターゲットは、上場企業様やそのグループ会社様など大手の企業様が中心になります。また、学校法人など定期的に理事会を開催する法人も対象になります。あとは、スタートアップ企業様ですね。上場準備中の企業様で、上場後も取締役会は続いていくので、いまのうちから私たちのサービスをお使いいただいているという感じです。
提供している価値は大きく3つあり、まずは「効率化」ですね。次に「高度化」。そして「グループガバナンスの強化」になります。
ひとつめの「効率化」についてですが、これは取締役会に参加する役員や事務局の方々の業務効率化になります。取締役会は、運営の詳細が会社法で規定されているので、基本的にはどの企業様も同じ流れで進めていくことになります。
日程調整から始まって、議 案の収集や招集通知、議事録へと進んでいきます。事務局の方々は会議の開催までに資料を作成するわけですが、差し替えが発生したりして、何度も何度もアップデートされることが多いです。コミュニケーションの手段はメールが多いので、「Re:Re:Re」みたいなメールが多く飛び交うことになります。加えて、役員は多忙な方が多いため、「どれが最新の資料かわからなくなってしまったから、改めて全部送ってください」といったやり取りがあったりします。取締役会を開催するまでに、すでにけっこうな工数が発生しています。
会議を開催するときも、資料を大量に印刷し、議案ごとに付箋でご案内をつけて役員の方々にお配りしたりしますから、ここでも地味に工数を使います。当日はICレコーダーで内容を録音し、それを人力で文字に起こして、議事録を作る。内容の確認依頼をして、必要があれば修正を行ない、何度かラリーをした上でやっと完成します。次は、印刷して製本し、署名・押印の手配をして、最終的に保管され、監査法人に提出されるという流れです。
役員が10名ほどいらっしゃって、対応する事務局は数名というケースが多いです。資料などをメールでやり取りしますが、全体に向けた一括送信ではなく個別に送るのが慣習になっている企業様も多くいます。そのため、役員の方はもちろん、事務局の負荷も相当なものになります。
『michibiku』では、メールや紙といった分散しているコミュニケーションツールを集約し、ひとつのプラットフォームの中ですべて管理できるようになっています。また、取締役会の進め方は会社法で決まっているので、ワークフローにしてあります。『michibiku』のフローに沿っていけば、ミスなく楽に進めることが可能です。まずは取締役会に関する情報を『michibiku』の中に集約し、一元管理することで、全体を効率化できます。また、プラットフォーム内に履歴やデータが残りますので、事務局の方が変わっても、これまでの流れを参照でき標準化にもつながります。
次に「高度化」ですが、より有益な議論にするためには現状把握をすることが必要です。いまどのような状態なのかを把握することで、目指す姿とのギャップを認識し、ギャップを埋めるための工夫を重ねていく。そうすることで、取締役会のクオリティがあがっていくと考えています。
現状把握するために、『michibiku』の中には会議資料や当日の音声データなど、さまざまなデータをストックすることが可能です。それらを分析することで、取締役会で何にどれだけの時間が使われているのかを可視化することができます。議案ごと、参加者ごとに、どのように時間が使われたのかが可視化できますし、説明と議論の割合を出す ことも可能です。
資料のボリュームも見える化できます。取締役会の資料って、あればあるだけ良い、みたいな感じで量が多くなってしまいがちなのですが、用意された資料を確認するのに必要な時間はどれくらいか?というのはあまり意識されないんですね。
すべての資料が揃うのが取締役会当日の2〜3営業日前、ということもあったりするのですが、多忙な役員が相当な量の資料を取締役会までに確認しきるのは非常に難易度が高いです。そのため、「詳細は当日に説明してもらおう」というのが習慣化されてしまい、本来やるべき議論や判断に時間が使えていない現状があると考えています。
まずは現在の状況を可視化し、改善できるところに手を入れて、あるべき姿に近づけていく。そうすることで、少しずつ取締役会のクオリティを上げていけると考えています。