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属人的な業務プロセス、把握し切れない郵便コスト───アップデートが遅れている企業の郵便物管理の世界でデータ化に挑戦するトドケール野島が描く未来。

属人的な業務プロセス、把握し切れない郵便コスト───アップデートが遅れている企業の郵便物管理の世界でデータ化に挑戦するトドケール野島が描く未来。

トドケールSaaS多国籍企業属人化解消エンジニア採用資金調達物流DX

2025.06.02 公開

会社概要 - company profile

企業名:株式会社トドケール

設立:2018

事業内容:オフィス・館内物流を管理するクラウドアプリケーション「トドケール」の開発・運営など

推薦理由 - Reason for recommendation
久田隆大

久田隆大

株式会社Finovo 代表取締役CEO

トドケールは、代表の野島さんのアメリカでの経験をもとに、郵便物・配達物管理、さらには物流プロセス全体の課題に取り組む非常にユニークなスタートアップです。 同社が提供するクラウド郵便管理サービスは、多様な働き方が求められる現代に必要とされるサービスであり、野島さんのこれまでの経験と事業に真摯に向き合う姿勢が、大手企業への導入に繋がっていると思います。我々Finovoもバックオフィス領域の変革に取り組む一員として、トドケールと一緒になってこの領域を変革していきたいと思います!

これまでのキャリアと創業の経緯について

─────今日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、野島社長のキャリアについて教えていただけますか。


大学を卒業して、PwCグループのあらた監査法人という監査法人で会計士として会計監査の仕事をしていました。4年くらい会計監査をしていたのですが、「違うチャレンジがしたい」と思うようになり、コンサルティングをするようになりました。


働き始めて10年くらい経ったときに、「独立しよう」と考えたタイミングがあったのですが、ふと「どうやってお客様を獲得すればいいんだろう」と疑問に思ったんです。営業をやっていたらいろんな方法があることはわかるものの、当時の私は社内で与えられる仕事ばかりをやっていたので、そもそもどうやって仕事を獲得するのかがわかってなかったんです。


ビジネスの一部分しか見てなかったということに気がついて、ちゃんと勉強したいと思うようになりました。そこで、アメリカに留学してMBAを学ぶことにしたんです。アメリカでは、もちろん英語で授業を受けるのですが、自分の英語がほとんど通じないことに衝撃を受けました。PwCにいたときは、まわりから「外国人部隊」と言われるくらい外国籍のスタッフばかりのチームにいたので、英語には自信があったというか、まあ大丈夫だろうと思っていたのですが、アメリカに行ってみると全然通じなくて。


「ああ、日本にいたときはある意味ゲストとして扱われていたんだな」とか「まわりのみんなが気をつかって、自分の話を一生懸命聞いて、汲みとってくれてただけなんだ」ということに気がついたんです。このままじゃダメだと思い、ちゃんと語学の勉強をしないといけないということで、一番良い方法は何かを考えました。私が出した答えは、現地で働くことです。そこで、インターンシップに応募を始めました。


将来的に自分で起業したいと思っていたので、大きな会社に行ってもしょうがないと考えていました。だから、インターンするならいわゆるスタートアップが良いと考えて、まだ新しい、規模の小さな会社に応募していたんです。


最初に働き始めたのは不動産投資ファンドでした。COOの方がPwC出身で、私のキャリアと共通点があるから雇ってくれたというのがいきさつです。不動産投資の世界では当時物流施設への投資が流行っていて、そのときに初めて物流の世界に触れたんです。そのときはAmazonがすごく伸びていて、「物流施設をつくるとすべてAmazonが借りてくれる」というくらい盛り上がっていました。


その後、もう少しテクノロジーに寄った仕事がしたいと考えて、宅配ロッカーのスタートアップで働き始めます。ロッカーって日本には何十年も前からありますけど、アメリカでは2015年くらいに出てきたAmazonロッカーが始まりだと言われています。それまでは、アパートにはリーシングオフィスがあり、そこにいるコンシェルジュが郵便物を受け取ったり、管理していたんです。


Amazonロッカーを置くことで、「管理するコンシェルジュの人件費がかかりません」というソリューションが生まれたのですが、アメリカで同じようなビジネスをやっている会社が数社あり、そのうちの1社でインターンをすることにしたんです。


従業員50人くらいの会社で、宅配ロッカーのビジネスをやっていて、「なんだかまた物流と縁があるな」と感じていました。せっかくだから、ここで本気で仕事をしようと思い、学校卒業後にインターンからフルタイムに転向することにしたんです。ところが、そのときアメリカでは大統領が変わるタイミングで、外国人へのビザの支給が一気に厳しくなってしまいました。私のまわりの留学生の友人も、みんな自国に戻るという状況になり、私も日本に帰ることにしたんです。


─────「これから」という時に大変でしたね、、、。日本に帰ってきてからのことも聞かせてください。


ビザが取得できなくて帰ってきたので、帰国したときは、無職なんですよね。じゃあ就職活動をすれば良いのですが、興味が持てる仕事をなかなか見つけることができなくて。感覚的な話になるのですが、「これだ!」とハマるものがなくて、私としても面白くないわけです。


すると、だんだん「留学して、MBAも取ったのに、なんでこんなことやってるんだろう」と思うようになってきたのですが、そのときに改めて起業にチャレンジしようという気持ちになったんです。


気持ちを切り替えていろいろと動き始めたところ、ある外資系企業のバイスプレジデントの方からLinkedinで連絡が来たんですよ。「日本で新しいプロジェクトを始めるので、フリーのコンサルタントを集めています。あなたも参加しませんか」というもので、これも何かのきっかけになると考えて参加することにしたんです。


実際に参加してみると、そのプロジェクトがとても面白かったんです。しかも、外資系企業の外部スタッフという契約だったので、アメリカの相場で報酬が支払われていて、けっこうな金額だったんです。それまで無職だった私は、フリーのコンサルでお金を稼ぎながら、起業に向けてビジネスモデルを考え始めました。


─────どんな流れで事業内容を決めたのか教えてください。


ビジネスの大きな流れがあると思っていて、その流れを踏まえながら考えていきました。具体的には、Salesforceから始まる営業系SaaSが大きなトレンドになっていて、次にLinkedInなどの人事系DXがあって、その次にはどんな波が来るだろう?という観点です。


この観点を持ちながら、それまでの自分のキャリアを思い返してみると、私の周辺には「物流」というキーワードがあったと思ったんです。客観的に見てみると、世界ではAmazonがECで大きく成長していましたし、日本では配送業者さんが宅配物を放り投げてしまうというニュースが流れた時期でもあって。「物流」という領域が拡大していて、だからこそこれまでは見えていなかった課題も出てくるようになってきたと考えました。そこで、物流に関わるビジネスモデルを考え始めたんです。


物流という大きなくくりだと考える対象があまりにも広いので、できるだけ小さい範囲にして、まずは「荷物の受け取り」というひとつの問題にフォーカスして考えていきました。きっかけは、コンサルとして参加していた外資系企業のプロジェクトです。


当時、ある保険会社でDXの仕事を担当していたのですが、そのなかでペーパーレスを進めるという話がありました。紙のやり取りからデータのやり取りに切り替えれば、情報の管理もしやすくなるし効率化も進むのですが、業務フローを変更することに対する心理的な抵抗とかがあってなかなか進まなかったんです。そのときに、紙を残すか、すべてデータにするか、といった極端な話ではなく、その中間にある「まずはモノをちゃんと管理する」という落とし所があるんじゃないかと考えました。


MBAの勉強をしていたときに、学生寮に住んでいたのですが、そこにはリーシングオフィスみたいなものがあったんです。私宛の荷物を受け取ってくれて、「荷物が届いたよ」と連絡をくれるのですが、「日本の企業にはこういう仕組みがないな」と思ったんです。


そこで、「荷物を受け取って、管理して、連絡する」というサービスのランディングページをつくってWeb上に出してみたら、3社から問い合わせがあったんです。社名は言えないのですが3社とも大手企業で、ニーズがあるということがわかったんです。


さっそく商談に行ったのですが、「まだアイデアだけでプロダクトはありません」とお伝えすると、3社のうち2社からは「なんだ、期待してたのに」と怒られてしまって(笑)。残りの1社は「プロダクトをつくったら買いたいから、絶対に形にしてください」と言ってくださって、そこで初めての契約が獲得できたんです。


─────そのときはまだ起業前だと思うのですが、開発資金はどうしたのですか?


プロダクトをつくらなきゃいけないということで、まずはフリーのコンサルタントとして稼いだお金を使うことにしました。


参考になったのは、インターンをしていたときの宅配ボックスの社長の話です。当時、「そういえば起業のときのお金ってどうしたの?」と聞いたことがあったんですよ。そしたら「そんなの自分でどうにかするんだよ。日本円で3,000万円くらい貯めて、それでプロトタイプをつくり、それを持ってベンチャーキャピタルをまわってお金を集めたの」と教えてくれたんです。その話を思い出して、「自分のビジネスプランだから、まわりを頼ってばかりじゃいけない。自分のお金を使おう」と考えたんです。


収入の半分は開発費にすることに決めて、コンサルタントの仕事を続けながら、知り合いに声をかけたり、海外のオフショア開発の会社を探したりしました。それでも足りないお金はどうにか調達しなくちゃいけないので、アクセラレーションプログラムに参加したりしたのですが、なかなか良い感触が得られませんでした。


「やっぱり自分の力だけでやるしかないか」と思っていたときに、ニッセイキャピタルの『50M』というアクセラレーションプログラムがあることを知ったんです。このプログラムは、プレゼンするときの資料がすごくシンプルで、白黒のスライドを出すだけでOKというものでした。過去に応募したどのプログラムよりもエントリーの手間がかからないものだったので、「チャンスがあるなら応募だけでも」という気持ちでエントリーしたら、採用してもらえたんです。


─────他のプログラムでは反応がよくなかったのに、何が刺さったのだと思いますか?


それまでのプレゼン資料は、大きなことを言っていたのだと思います。「物流業界全体を良くする」みたいな壮大なビジネスプランを描いていたんです。全部をやろうとすると数十億円みたいな資金が必要になるプランで、「本当にできるの?」「何か実績はあるの?」と突っ込まれると返せなかった。


でも、『50M』に応募したときの資料は、そもそもスライドの枚数がすごく少ないので、内容も具体的で、当時の身の丈にあったものでした。「まずは荷物の受け取りの部分にフォーカスして、ちゃんと管理できるようにする。以上」みたいな感じの資料で、「すでに反響ももらっていて、大手企業ばかりです」とプレゼンしたんです。


カラフルで作り込んだものではなく、白黒で少ないスライドだったのですが、その分、必要な情報だけしかなくて。ニッセイキャピタルの方が、本質の部分だけを見ようとしているとわかって、個人的にはけっこう衝撃を受けたことを覚えています。


このプログラムを通じてベンチャーキャピタルとのお付き合いが始まり、プロダクト開発に必要な資金面の支援を受けられることになりました。



アナログで処理されていた配達物をデータ化し、見えなかったムダを削る

─────改めて、プロダクトやサービスについて教えていただけますか。


『トドケール』というプロダクトや『クラウドメール室』というサービスを提供していますが、これは私が描いていた物流全体の課題解決のうちのごく一部を形にしたものになります。


お客様はいわゆる大企業がほとんどで、従業員数で言うと300名から数万名です。取引先からの荷物を受け取る、取引先に荷物を送る、支社や拠点、グループ会社宛に社内便を使う。こういったことを頻繁に行なっている企業がお客様になります。


まず最初にフォーカスしたのは、荷物を受け取る部分です。『トドケール』を使うと、荷物をデータで管理することができ、どこにいても受け取ることができます。そうすることで、「あなた宛ての荷物があるので受け取りに来てください」と連絡しなくてもいいですし、受け取るために出社する必要もありません。


多くの会社では荷物の受け取りやその後の仕分けをメール室の方が担当しています。その方たちに使っていただくのが『トドケール』ですが、ユーザーの声を集めてプロダクトに活かしたいと考え、メール室業務をアウトソーシングで受託する『クラウドメール室』というサービスも提供しています。


実際にメール室業務を引き受けることで、プロダクト開発に必要な気づきを得ることにもあります。『クラウドメール室』で得られた気づきを活かし、『トドケール』にオートメーション機能や省力化機能を追加していく。これをくり返すことで、サービスのクオリティを高めていくというモデルになります。


また、大手企業の中にはメール室やその周辺機能を丸ごと外注したいというニーズもあります。荷物の仕分けだけではなく、受付業務やファシリティマネジメントといった業務も含めてです。そういうニーズに対応するために、コクヨ&パートナーズ様と連携し、業務プロセスの設計や業務そのものをBPOで引き受けるというサービスも提供しています。


大手企業のメール室には、たとえばご年配の方でデジタルな業務に馴染みのない方もいらっしゃいます。いきなり『トドケール』を使いこなすのは難しいというケースもありますので、活用するための研修をしたり、スタッフの育成をしたり、そういうこともやっています。


─────いわゆる大手企業が御社のサービスを導入する理由やメリットとしては、どういうものがあるのでしょうか?


荷物を受け取るという部分にフォーカスすると、たとえばですが『トドケール』と『クラウドメール室』をセットでご利用いただくと月に数百万円かかります。これを自社の社員でやる場合、大手企業だとメール室に5〜6名くらいが在籍していることが多いので、月給30万円+社会保険などで月に数百万円です。少しコストメリットが出る場合もありますが、そこではなく、先々を見ているお客様が多いです。


どういうことかと言うと、メール室の業務を担当するのは若手じゃない場合がほとんどで、多くは定年退職されたシニアの方です。つまり、人材の確保が難しかったり、業務が属人化していることが多いので、持続性に懸念があるんです。


そのため、いまのうちからシステムで管理するようにして、荷物を受け取ったあとの仕分けや社内での通知をデジタル化しておく。そうすることで、省力化につなげたり、これまでの履歴を残して属人性を下げていくことが可能になります。


荷物を受け取る側にも業務の効率化というメリットがあります。たとえば営業のAさん宛てに荷物が届いたとするじゃないですか。これまでは「荷物が来ています」と連絡があり、受け取るために営業先からオフィスに戻る必要がありました。でも『トドケール』ならPDFで中身を確認することができるので、業務効率があがりますよね。


また、取引先から「社長が交代しました」とか「本社が移転しました」という挨拶状が送られてきます。契約書を郵送する会社さんもまだまだ多いです。大企業がだと本社一括で荷物を受け取り、そこから社内便で支社に送り直したりするのですが、手元に届くまでにタイムラグがあったりします。


そうしている間に「先日契約書をお送りしたのですが確認いただけましたか?」とか取引先から電話がかかってきたりする。これまでは「まだ手元に届いていないので、届き次第折り返します」と言っていたと思うのですが、『トドケール』であれば電話しながら画面で確認ができます。タスクを持ち越すことなく、その場で完結できるので、これも現場社員の方の業務効率向上につながるはずです。


「荷物が届いていたと連絡が来ていたな。取りに行かないと」とか「あの会社に折り返しをしないと」とか、一つひとつは小さなことですが、これがたくさん積み重なると効率に大きな影響を与えるようになります。システム化することで、こういった細かいタスクを発生させないようにして、全体の生産性を上げたいというお客様が多いです。


─────確かに、郵便物の中身を確認しないと回答できないことってありますよね。

※本記事の内容はすべてインタビュー当時のものであり、現在とは異なる場合があります。 予めご了承ください。