
幼い頃から「日本が世界で勝つには」を考えてきたアーチーズ加藤が挑む、海外から日本を活気づけるというアプローチ。
2024.08.01 公開
2024.08.01 公開
企業名:アーチーズ株式会社
設立:2019年
事業内容:エキスパートマッチング、エキスパートソリューション、エキスパートナレッジバンクなど「知識のシェアリングサービス」の提供
KUSABI代表パートナー
口先だけではなく、本気で世界で勝とうとしているスタートアップ。今後、爆発的な成長が期待できるアジアのエキスパートネットワーク市場のパイオニアを狙います。また、蓄積されるアジアのエキスパート人材DBをアセットにした、様々な新規のビズデブも期待されます。メンバーの過半数が海外を拠点に活躍しており、求職者の方々は、他のスタートアップとは一味違うキャリア形成の機会が得られることをお約束します。
東京大学経済学部に在学中に、投資とコンサルを両方やっているYCPでインターンをしていました。2013年に大学を卒業して住友商事に入社し、古巣のYCPを経て、2019年にアーチーズを立ち上げたというのが創業までの簡単な経緯です。
私の家庭は父も兄も政府系の人間でした。父は経済産業省で働いていて、兄は政府系の金融機関で日本企業の海外進出を支援していました。そういうこともあって、幼い頃から「日本企業が海外で勝負するには何が重要か」「日本の産業は世界でどのように存在感を発揮していくべきか」というのが食卓の会話テーマだったんです。私も多くの影響を受けていて、昔から「日本が好き」「日本がんばれ」という気持ちを持っていました。
海外のホテルでテレビがソニー製だったらうれしいし、トヨタやホンダの自動車が海外の道路で走っていたらうれしい。日本の製品やサービスが世界で活躍していることに対して、日本人として誇らしさを感じるタイプでしたね。
就職活動時のテーマは、日本のためになる仕事であること。そして、自分でビジネスの仕組みづくりに携われること。これらの条件で、総合商社を選んだんです。
米国のエネルギー投資プロジェクトに参画していました。2000億円投資するような規模の大きな案件なのでやり甲斐がありましたが、心の中では「自分の介在価値ってどれくらいあるんだろう?」という疑問があったんです。
大きな会社で働くことで自分の成長を待つよりも、小さな会社をつくって大きくする方が自分の成長幅は大きく、成長スピードが早いのではないか。そのほうが主役として事業に関われるのでおもしろいんじゃないか。そう考えるようになり、時期を決めて3年で商社を辞めることにしたんです。
いまは上場していますが、YCPは当時は現在で言うスタートアップ企業で、小さな組織を大きく成長させるためのプロセスが学べると考えました。外資系出身者が立ち上げた会社ですが、「日本の競争力向上に貢献したい」という事業コンセプトだったこともあり、私の根っこにある働く理由と親和性が高いというのも魅力でした。
YCPに転職して最初の2年くらいは日本でコンサルをしていました。その後、海外案件の経験を積むために「ベトナムオフィスの立ち上げがしたい」と創業者に掛け合ったんです。そして、ベトナム拠点の立ち上げを任せてもらうことになりました。
ベトナムの拠点立ち上げ時には、シンガポールの投資会社の東南アジア進出を担当したことがあります。投資先の調査、検討から、投資後の経営サポートまで、幅広くさまざまな業務を担当しました。そして、その際に二つのことを感じたんです。
まずは、「このマーケットはめちゃくちゃ魅力的だ」ということです。とにかく活気がすごい。開発で街がどんどん変わっていき、新しい商品やサービスがどんどん生まれていました。銀行に預金したら10%の金利がつくくらい景気が良い。でも、預金するより投資した方がリターンが大きいから、誰も預金しない。マーケット全体がパワフルにどんどん拡大している感じでした。
感じたことのもう一つは、情報収集が非常に大変だということです。情報の真偽を問わず、いろんな情報が飛び交っているんです。誰がライトパーソンなのかわからない、何が正しい情報なのかわからない中で、次々と投資の判断が行なわれていく。騙されるケースもあり、ギャンブルに近い投資案件もありました。せっかくおもしろいマーケットなのに、海外の投資家の立場からすると事業がやりにくいなと感じました。
マーケットが伸びているので、経営者が未成熟や不誠実だったとしても事業は成長するんです。ここが課題だと考え、解決したいと思いました。そして、そのためには「専門家に話を聞く仕組みがあれば良い」と考えたんです。
当時、専門家 から短時間でアドバイスをもらうスポットコンサルティングのサービスが、アメリカから日本に持ち込まれてうまく行っているという話を聞いていました。では同じコンセプトを成長中の新興国やアジアで展開すれば良いのでは?と考えたんです。マーケットが成長しているけど、情報ギャップが大きい。裏を返せば正しい情報が欲しいというニーズが多いのではないか。そう考えました。
日本の企業がいまよりも成長するには、海外に売り込めるサービスを開発しないといけないと考えています。人口減少によって、日本の市場は小さくなるためです。
YCPでコンサルや投資業務をやったときに、日本企業が海外で勝負するには正しい情報収集が欠かせないと思いました。そのための仕組みをつくることができれば、日本の企業や商品・サービスはもっと海外に出ていける。結果的に、日本のために貢献できるのではないかと考えたんです。
また、次の世代に事例を残せるとも考えました。海外で事業を行ない、結果を出すことができれば、日本の人たちに対して一つのサンプルになるはず。私たちが良い結果を残せたら、これからグローバルに事業をやる会社が増えるかもしれない。これも日本の今後のために役に立つの ではないかと思ったんです。
これが本当に大変で(笑)。とても管理コストがかかるんですよ。日本やベトナム、中国、シンガポールなど複数の国で事業を展開しているため、国によって法律が異なるので管理が大変です。会計システムも3つくらい使っていて、連結会計をつくるのも非常に手間がかかりますね。
同じだけの売上をつくるなら、国内だけでやった方が簡単だったと思います。ただ、今後の日本に役立つサンプルになるためには、初期フェーズから海外で事業を行なうことは大きな意味があると考えているので、海外で事業をやることには執着していますね。アーチーズは現在、14カ国の社員が働く多国籍企業ですが、ちゃんとやればきちんと機能し、成果が出せると考えています。
特にアジア市場に対する情報のギャップを解決するために、複数のサービスを提供しています。大きく分けると、人を起点にしたサービスと情報を起点にしたサービスです。
人を起点にしたサービスの一つ目は、「エキスパートマッチング」。これは、専門的な知識が欲しい人に向けたオンラインでのスポットコンサルティングサービスです。海外での事業拡大や投資を行なう際の意思決定をする際に、お客様が必要とするのが専門的な情報です。そういうニーズに対して、専門知識を持ったエキスパートをオンラインでマッチングし、短時間のインタビューを通じて情報収集をしていただくサービスになります。
お客様になるのは、戦略コンサルティングファームや投資会社。事業会社の投資部門や新規事業開発部門などです。彼らの質問に応えるエキスパートは、東南アジアや日本、中国、インドなどさまざまな国籍の方がいます。専門としている業種や領域も多様で、幅広いニーズに対応できるようにエキスパートのデータベースは少しずつ増やしていくオペレーションを取っています。
二つ目のサービスは、「エキスパートソリューション」と言うものです。聞きたいこと、調べたいことはあるのだけどエキスパートへのインタビューに慣れていないお客様もいらっしゃいます。そのため、インタビューのフォーマット作成や、インタビューを代行してレポートにまとめたりする部分を私たちで担うサービスです。ときには、スポットではなくエキスパートと一定期間行動を共にしたいというニーズもありますので、エキスパートを派遣し、プロジェクトが完了するまでを支援することもあります。
そして、人を起点にしたサービスの三つ目は「タレント・サーチ」です。これはわかりやすく言えば人材紹介サービスで、お客様とやり取りする中で必要があればプロフェッショナル人材のサーチや紹介を行なうものです。人材紹介は許認可事業になり、国によって法律が異なりますから、事業を展開しているそれぞれの国で認可の取得を進めています。
「エキスパートナレッジバンク」というサービスで、エキスパートと世界中の投資家とのインタビュー内容を書き起こし、見える化することでいつでも簡単に知識にアクセスできるものです。
可視化することで知識がアセットになり、ライブラリーにまとめることで誰でもアクセスできるようになれば情報のギャップを埋めるための第一歩になります。現在は、試験的に日本でサービス導入しており、ニーズにフィットするかの検証が済めば、東南アジアや中国でも展開していきたいと考えています。
まずはエキスパートナレッジバンクを使って知りたい情報について調べていただく。さらに深く知りたい場合は、エキスパートマッチングでインタビューを行なう。プラスアルファが欲しい場合はエキスパートソリューションを利用いただき、プロフェッショナル人材の採用が必要になればタレント・サーチを活用いただく。こういったサービスラインナップで、特にアジアを中心とした海外での事業展開や投資に必要な意思決定をサポートしています。
事業の意思決定をするまでのスピードが早くなること。そして、意思決定の質が上がること。これらがお客様に提供できるメリットだと考えています。
たとえばスピードについては、私たちはオンラインでのマッチングサービスなのでニーズが発生してからエキスパートとのインタビュー設定までが非常にスピーディーです。過去には、ある中国の企業から「インドネシアやベトナムのフィンテック関連のエキスパートとすぐに話したい」と依頼が来ましたが、2日後にはインタビューを実施。インタビューの数日後には、その中国企業は投資を実行したという事例があります。
そして質については、多面的な情報収集ができるように多層的で網羅的なエキスパートデータベースを構築しています。たとえば、先ほどのフィンテックの例であれば、関連するエキスパートは多岐に渡ります。フィンテック関連のテクノロジーに詳しいスタートアップのエンジニア、地場の銀行など金融情報の専門家、フィンテック分野を専門にしているメディアのアナリスト、オンラインペイメントサービスを活用している小売業のマーケターなど、エキスパートの専門分野もさまざまです。納得して判断できるように、複数のエキスパートにインタビューを行なうことができますし、そうすることによって質の高い意思決定が可能になります。
エキスパートを探すプロセスを標準化して、ベトナム拠点でオペレーションを回し続けています。
近年では、いろんな専門家のビジネスプロフィールがインターネット上に点在しています。企業ホームページといったパブリックなものから、SNSのようなものまで、大量の情報があります。それらを特定のロジックに沿ってクローリングし、当社のエキスパートとして登録いただけないかアプローチしています。クローリングからアプローチまでは自動で行なう仕組みができていて、候補者に対してどれくらい接触できているかをKPI管理する仕組みもつくりました。
エキスパートを増やすために必要なアクションを簡単に行なうための仕組みと、アクションを管理するための仕組み。これらを合わせてオペレーションシステムと呼んでいます。このオペレーションシステムがあり、システムを活用してエキスパートを開拓するリクルーターがいます。標準化された仕組みがあるので、経験値に左右されず入社2ヶ月目からは成果が出るようになっています。
この仕組みを回し続けているので、現在は10万名強のエキスパートが登録しているサービスになりました。
250社以上のお客様のうち、日本企業が4割ほど、海外企業が6割くらいでしょうか。今後は欧米の企業に対する営業を強化していくので、自然と海外企業の割合が増えていくのではないかと考えています。
世界を見渡すと同様のサービスを提供している先行企業がありますが、彼らはアジアのカバーが弱いです。そのため私たちはオペレーションを回し続け、アジアのエキスパート開拓を続けています。結果として、競合のデータベースにはいないエキスパートをマッチングできると考えています。
成果を出すというゴールにコミットできていれば、あとはできるだけ自由度を高くしています。多国籍企業ということもあり、生活習慣や価値観が多様ですから、できるだけシンプルなマネジメントにすることがポイントだと考えています。
拠点のサイズ感で言えば、ベトナムが圧倒的に大きく、その次に東京、上海、シンガポール、香港という順番です。ベトナムにはエキスパートを開拓するためのオペレーション部門とシステム開発のエンジニア部門を集めているので大きな所帯になっています。東京には財務や経理、法務といったバックオフィス機能と営業機能があります。それ以外は、すべて営業機能のみです。
一番パフォーマンスが上がる状態で仕事をしてもらいたいので、働く場所は社員に任せています。たとえば日本の財務部長は、一年の3分の1をタイ、3分の1をベトナム、3分の1が大阪という働き方です。経理部長もベトナムと富山を行き来しながら仕事をしています。
ベトナム拠点に関してはオペレーション部門の社員が多数のため、できるだけベトナム在住で仕 事をしてもらっています。オペレーションを回す場合はチームワークとスピード感が大事になるので、物理的に同じ場所で仕事をする方がチームとして高いパフォーマンスを出せると考えているためです。
他拠点の社員に関しても、オペレーション機能が充実しているベトナムに出張して交流を深めたいという意見は大歓迎です。そういった声に応えるために、ベトナムにはたくさん家を借りているので自由に使ってもらっています。「希望すれば明日からでも海外拠点で働ける」という自由度の高さやアジリティの高さはアピールポイントの一つですね。
オペレーションの仕組みがあるので、次は社員のエンゲージを高いレベルで維持することが組織運営上のポイントだと考えています。働き続けたい職場だと思ってもらえるように、チームビルディングのための対面イベントも大切にしています。今年の社員旅行では、各国の拠点から約10カ国の国籍を持つ約80人の社員がベトナムのリゾート地に集まりました。同じ場所で同じ時間を共有することで、多国籍企業であっても組織としてのつながりを強くしていけると思っています。
「人を起点にしたサービス」と「情報を起点にしたサービス」をベースに、カバーできるエリアを広げていきたいと考えています。日本、東南アジア、中国といった既存エリア、そしてインドと韓国などの新規エリアをカバーし始めたのが現在のフェーズです。欧米のエキスパートへのアプローチも始めているので、エキスパートマッチングのオペレーションシステムを武器にチームプレーで勝てるようにしていきたいと考えています。
エリア拡大の次はサービスラインナップの強化です。既存サービスを強化していくためにも、テクノロジーのスパイスを加えることが必要になると考えています。
たとえば「エキスパートナレッジバンク」においては、可視化されたインタビュー情報を閲覧した投資家が、どういう情報を見てどのような投資判断を行なったのかをテクノロジーを使って分析する。またはレポートの中に含まれるポジティブワードやネガティブワードの量が最終的な意思決定に与える影響度をスコア化する。こういったことができるようになれば、さらにユニークなサービスを提供できるようになると考えています。
事業の観点で言うと、日本企業が現時点では特にアジアを中心とした海外展開を考えたときに、意思決定するための大切な情報源として私たちのサービスをもっと使っていただきたいですね。良い意思決定につながるようにサービスを磨き、日本企業の海外展開に貢献していきたいです。
事業以外の観点では、私のような日本の若者が海外で事業を立ち上げ、多国籍企業をつくってビジネスをしている事実を通じて、日本の若い人たちのロールモデルになれたらうれしいですね。
将来的には投資にも興味を持っていて、海外に出て行こうとしている日本企業に投資できるようになりたいと考えています。私に資産があれば、世界を視野に入れてチャレンジしようとしている人に投資したい。私自身もそういった先人にサポートしていただいているので、「海外でビジネスをして、競争に勝てる日本人をつくる」という場面に支援者として関わりたいと思っています。
また、これは個人的な意見ですが、「日本人はもっと世界で勝負できる」という想いがあります。戦後、日本企業が世界に出て行ったときって、何か専門的な知識があったわけでもなく、めちゃくちゃ英語ができたわけでもないと思うんです。 愚直に良い製品やサービスを作ろうとしていたことと、それを裸一貫で世界に売り込んで行っただけ。同じ日本人である私たちが、同じことができないわけはないと思っていて。もしかすると当時よりも世界で勝負するハードルは下がっているかもしれないとさえ思っています。日本のブランドは広く認知されていて、友好的に思ってくれている国も多いわけですから。もしかしたら、私たちが勝手に「できない」「難しい」と思っているだけじゃないかと。だから「僕たちってもっとできるよね」ということを示していきたいと考えています。
そのためにも、活気のあるマーケットがあればそこに飛び込んで行動しまくるだけ。これが私の選択なんです。ゴールドラッシュが起きているから、そこに行くか、行かないか。日本をさらに強くするためにも、海外から夢や希望を日本に届けることができると思っているし、自分が選んだこの環境で結果を出すことが結果的に日本の発展につながっていくのだと考えています。
企業名:アーチーズ株式会社
事業内容:エキスパートマッチング、エキスパートソリューション、エキスパートナレッジバンクなど「知識のシェアリングサービス」の提供
コーポレートサイト:https://arches-global.com/ja/top/
株式会社ディプコア 代表取締役CEO
加藤社長との会話の中で、「サービスを使ってくれる顧客にとっての知の羅針盤になりたい」というフレーズがありました。アジアや新興国での事業展開において、同社が提供するエキスパートとのマッチングサービスは、進むべき道筋を示唆してくれる羅針盤のようなものだと感じました。 また、「日本の若い人たちにとってのロールモデルになれたら良いと思っている」ともおっしゃっていました。「携帯電話があれば、調べ物もできるし、通訳だってしてくれる。昔よりも、海外で仕事をすることの難易度は低くなっていると思います」というのが加藤社長の意見でした。 私も20代半ばに中国で約2年、合弁会社に出向していたのですが、当時の急成長する中国とそこに集まる世界各国の優秀な方々との交流が、大きな価値観の転換点になりました。日本が好きだからこそ、日本以外を知ることはとても大事なことだと思います。 海外での事業立ち上げやサービス拡大に挑戦している社長。その動きは、日本人のキャリア形成という観点においても、一つの方向性を示す羅針盤になるのかもしれないと感じました。
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