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推薦理由 - Reason for recommendation
湯浅 エムレ 秀和

湯浅 エムレ 秀和

グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社 パートナー

Leanerは、巨大なDX機会、解約率ほぼゼロのプロダクト、圧倒的に優秀なチーム、と大飛躍に向けて素晴らしい素地が整っていますが、敢えて1つ特徴を挙げるなら、とにかく「熱い」会社です。100人前後のチーム全員がコトに向かっており、その溢れんばかりの熱い想いが周りの人たちに伝わってどんどんLeanerファンが拡大していっています。そのマグマの中心地にいる大平さんのトークは読んでいる人の胸に火を灯すことでしょう!

これまでのキャリアと創業までの経緯

─────最初に、創業に至るまでの大平様のプロフィールを教えてください。


小さい頃は、プラモデルや乗り物が好きな子どもでした。乗り物の中でも飛行機が大好きで、本気でパイロットになりたいと考えていました。日本だと、パイロットの免許を取るのが難しくて、1日でも早く飛行機を操縦したいと思っていたので、大学を休学してアメリカに行きました。アリゾナの大学に編入して、朝は飛行機の操縦、昼は勉強、夜は友人とお酒を飲みながらいろんな話をするという生活でした。


それまではずっと「パイロットになりたい」という夢のためにがんばってきたんですけど、いざやってみると、イメージと現実は違っていました。飛行機の操縦には非常に厳しいルールや規則があって、定められている手順をしっかりと守れることが何よりも大切。いま思うと当たり前のことなんですが、個人の考えで試行錯誤するなんてあり得ない世界でした。試行錯誤するということは、結果的に危険を伴いますから。


飛行機を操縦したいという部分ばかりに目が行っていて、操縦するためにはいろんな決まりを守らなければいけないということが見えていなかったんです。飛行機は変わらず大好きですし、パイロットの仕事は純粋に憧れの対象なのですが、もしパイロットになったら同じような仕事が40年以上も続くのか、、、と考えるとリアリティが感じられなくなりました。


素晴らしい仕事ですが、いろいろ試してみるのが好きな性格の私には合っていないと思いました。


田舎の大学だったので、シリコンバレーでインターンするのも難しいし、とはいえ大学にはまだあと1年くらいいる。「何をしようかな」と考えていたときに、ルームメイトと「メディアやサービスをつくってみない?」という話になりました。僕はもともとシステムデザイン工学を学んでいたので、自分でコードが書けることもあり、「じゃあやってみよう」ということでサービスづくりを始めたんです。いま思えば、あれがスタートアップというものに触れた最初の体験だったのかもしれません。


アメリカの大学を卒業して日本の大学に戻ってきてからも、「自分で会社をやろうかな」と考えていました。ありがたいことに、身近にスタートアップで働く先輩がいて、「こういうコードを書いてみたら?」とか「このコミュニティがおもしろいらしいよ」とアドバイスをくれました。


大学の最後のほうは、コミュニティで知り合った人たちとアイデア交換しながら、なんちゃってスタートアップじゃないですけど、自分たちで会社やサービスを立ち上げたりしていました。新卒採用の支援をする会社で、一生懸命サービスをつくって、お客様のためにやっていたんですが、なかなかスケールしなくて。鳴かず飛ばずでしたね。


大学の友達からは「がんばってるよね、すごいね」とチヤホヤされたんですが、実際のサービスは大きくならなかった。世の中からすれば「あってもなくても一緒」という評価がされたような気がして、個人的にはめちゃくちゃがんばっていたこともあったのですごく悔しかったです。


─────結果につながらなかった現実と向き合って、どうやって切り替えたのでしょうか?


どうせ全力で仕事をするんだったら、「世の中から必要とされる仕事がしたい」「日本を支えるような仕事がしたい」という気持ちだけは強く持ち続けていました。そんな僕に、ある先輩が教えてくれたんです。


「日本を支えているのは、誰もが知っているような超大手企業だけじゃない。世間では有名な大手企業や、ユニコーン企業とかにスポットが当たることが多いけれど、一般的な知名度はなく知られていないが、売上1兆円規模の会社はたくさんある。そういった会社が縁の下で日本を支えてくれているんだ」という話でした。その先輩はご自身で起業してバリバリ仕事をしている方で、僕からはキラキラした存在だったのですが、「自分たちもまだまだだから、ここを目指されても困るよ。もっと知っておくべき会社がたくさんあるぞ」みたいなことを言われたんです。


それまではBtoCの領域でビジネスを考えていたのですが、視座を上げなきゃダメだと思いました。もっと大きな課題はないか。世の中全体が困っていることで、1兆円分の悩みはないか。「本当に困っていてしょうがない」という根深くて大きなペインを見つける必要があると考えたんです。


それに、新卒採用の支援をしていたときのお客様のなかにA.T. カーニーがあったのですが、代表からは「日本の大半の企業はBtoBで、君はマーケットのごく一部しかまだ知らない。将来的に起業するのかもしれないけど、日本を支える仕事がしたいのなら影響力のある1兆円企業の社長が何に悩んでいるのかを知ることから始めたら良いんじゃないの?」とアドバイスをもらいました。


個人的に「確かに」と思いましたし、僕のような若輩者が大企業の社長から悩みを聞けるチャンスはなかなかないと考えて、新卒でA.T. カーニーに入社したんです。


─────A.T. カーニーではどのような仕事をされていたのでしょうか?


主に調達の改革や事業戦略策定などを担当していました。大企業の社長とやり取りをしていると、当たり前ですがいろんなアジェンダを持っていることがわかりました。営業改革や利益率の改善、中期経営計画の策定、経理業務のデジタル化、AIの活用など、本当にいろいろです。そして、たくさんのアジェンダのなかで最も抜本的に改善すべきだと思ったのが、いま僕たちがやっている調達の領域のデジタル化です。


調達というのは、簡単に言えば「企業の買い物」なのですが、日本ではこの領域のデジタル化が圧倒的に遅れています。どの企業も買い物をするので広く共通している悩みでありながら、まったく改善が進んでいなかったんです。グローバルで見ると他の国に遅れをとっていて、これでは競争に勝つのは難しいと思いました。そこで、調達のスタンダードを刷新することをミッションに掲げて、自分で会社を立ち上げることにしたんです。


─────A.T. カーニーでの仕事でBtoBの世界に触れたら、これまでは見えていなかった大きなペインに気づき、その解決に向けた事業をやろうということですね。細かいところかもしれませんが、A.T. カーニーで働きながら調達領域のデジタル化を進めるのではなく、ご自身で起業した理由を教えてください。


僕の中では明確な理由がありまして、一言でいうと「コストが合わない」からです。コンサルティングサービスは付加価値も高いのですが、単純に価格だけをみると、やはりなかなか高いんですよ。これは良いことでもあると思っているのですが、A.T. カーニーのようなプロフェッショナルファームの場合は、少なくとも数千万円、ときには数億円のお金をいただいて、経営を抜本的に変えていくんです。


一方で僕たちがやろうとしているのは、「企業の買い物」を良くしていくことです。日常的にやっている買い物のために数億円を支払う会社って、とても少ないと思います。そのため、コンサルティングファームからは独立した状態で調達領域のデジタル化にチャレンジする。そうすることで、多くの企業が僕たちのサービスを利用しやすいはずですし、裾野が広がって結果的に大きなインパクトが出せると考えたんです。


ちなみに、A.T. カーニーにいたときも「調達の詳細がわからないから見える化したい」という相談をもらうことがありました。けっこう根が深い話で、なぜか調達の領域はデジタル化から取り残されていて、アナログなやり方がずっと続いている会社が多いんです。なので、「ムダをなくすためにも、まずは見える化したい」という要望が出てくるんです。


そういう声があったときに、1日に何十万円もかかるプロフェッショナルファームのコンサルタントが何をやるかというと、お客様の社内にある見積書や発注書の内容をPCでエクセルに打ち込むんです。アルバイトさんやパートさんにも手伝ってもらいながら、エクセルに打ち込んで集計するというのを一生懸命やるのですが、高いコンサルフィーを支払っていただいているのに、あまりにもアナログなので、費用対効果がよくないと思いませんか?


グローバルで見ると、企業の買い物の詳細はデータ化されていることが当たり前です。でも日本は一生懸命エクセルに打ち込むことからはじめないといけない。でも、これが現実なんです。こんな状態で、各社が世界との勝負に勝とうとしても難しいんですよね。おそらく、どこかの誰かがいつかどうにかするだろうとみんなが思っていて、何十年もそのままになっていたんだと思います。


多くの企業が困っているこの課題に対して、誰かが変えてくれるのを待つか、自分たちで変えにいくか。A.T. カーニーにいたときからこういうことを考えていて、僕は後者を選んだんです。


─────それで2019年に立ち上げたのがLeaner Technologiesということですね。


そうです。そして、この「Leaner Technologies」という社名にも、実は僕なりの覚悟があるんです。


先ほどもお伝えしたとおり、コンサルティングってとても大きな投資をしていただくので、コネクションがある人間が独立すれば、一定儲かりますし、高い利益率も狙えます。ただし、僕は日本を支えるような会社にしたいと思っていたので、多くの企業を支援したいと考えていました。そして、調達の領域で支援をするには、企業の買い物のデータを見える化したりするためにテクノロジーを使うことが前提になると考えたんです。


加えて、創業したばかりのころは特に売上をあげることが重要ですから、「コンサルティングをすれば儲かる」という誘惑もあります。ただし、その誘惑に負けず、たくさんの企業を支援するためにも、社名にあえて「Technologies」を入れることにしました。


「Technologies」をつけると、「この会社はコンサルティングはやらないんだな」というのが伝わるじゃないですか。僕らはソフトウェアの会社で、コンサルティングをするわけではない。「テクノロジーで調達のスタンダードを刷新する」というミッションに従順でいるために、わざわざ社名に「Technologies」をつけたんです。


万が一、会社の調子が悪くて、本当に売上がヤバイというときには、最後の最後の切り札としてコンサルティングをやるかもしれないという気持ちはほんの少しだけありましたが、 僕としては自分の覚悟を社名に込めたつもりです。これは社内でもみんなにあまり言っていないので、知らない人も多いかもしれません(笑)。


大ヒットした初プロダクトをピボット。代わりに、解約率は1%未満に

─────創業後についてお聞きします。「リーナー見積」と「リーナー購買」のふたつのプロダクトがあると思うのですが、それぞれについて教えていただけますか。


簡単に言うと、「リーナー見積」は見積業務を電子化するサービスで、「リーナー購買」は発注業務を電子化するサービスです。ただ、対外的にはあまり言ってないのですが、創業期は全然違うサービスでした。


最初のプロダクトは、支出分析ができるサービスだったんです。個人向けにも、ICカードやクレジットカードと連携して、月間で何にいくら使ったのか支出の内訳をダッシュボードで見える化してくれるサービスがあると思いますが、その法人版になります。


結論からお伝えすると、めちゃくちゃ売れました。お客様としても状況把握できていないことに課題を感じていたんだと思います。「見える化したいからそのサービスを買います!」という具合に、たくさんの企業様に受け入れてもらいました。


これによって売上をつくることができたし、資金調達もできました。ICC(※)でもこのプロダクトで優勝できましたし、会社の立ち上がりを支えてくれたプロダクトでした。


(※ICC=「Industry Co­-Creation」の略で「ともに学び、ともに産業を創る」ことを目的にした経営者・経営幹部のためのコミュニティ型カンファレンス。同社は2020年にコストを見える化する「Leaner」で優勝した)


ただ、僕たちはこのプロダクトを引っ込める判断をします。ICCで優勝したプロダクトを取り下げたのは僕たちぐらいかもしれません(笑)。


─────え?なぜピボットしたんですか?


投資家に相談したときも「伸びているのになぜ?」という感じで最初は反対されました。でも、僕たちの中にはこのプロダクトを引っ込めなきゃいけない明確な理由があったんです。


と言うのも、お客様のところに納品に行くと、コストを見える化するためのサービスなので、データをまずはいただく必要があるんです。しかし、お客様からは「紙で管理しているのでデータはありません」と言われることがほとんどでした。詳しく話を聞くと、見積書も発注書も納品書も、すべて紙でのやり取りで、しかもそれぞれがバラバラに管理されている。そういうお客様がほとんどだということがわかったんです。


データを入れて、処理して、内訳を見える化できるのに、肝心のデータがないんですよ。見える化するためには、元になるデータをすべて打ち込まないといけなくて、「これは無理だ」ということになりました。


「調達のスタンダードを刷新し続ける」というのが僕たちのミッションですが、このままでは日本中の会社がこのプロダクトを使うために紙で管理している情報を打ち込み続けることが当たり前になってしまいます。そんな世界はまったく想像できませんでしたし、そもそもそんな世界にしたかったわけではありません。


─────当初は「エクセルなどにまとめられているだろう」という想定だったのでしょうか?

※本記事の内容はすべてインタビュー当時のものであり、現在とは異なる場合があります。 予めご了承ください。