
コンフォートゾーンの外へ───リクルート事業責任者からリユース業界に飛び込んだ徳重。“前始末”で描く国内トップクラスの企業への成長戦略。
2025.12.23 公開

2025.12.23 公開
株式会社BuySell Technologies 代表取締役社長兼CEO 徳重 浩介
設立:2001年
事業内容:総合リユース事業

株式会社よりそう 代表取締役社長COO
バイセルは、単なるリユース事業にとどまらず、「大切にされてきたものを次の担い手へ正しくつなぐ」社会的な循環を担う存在だと感じています。高齢化や相続の進展により、手放し方に迷う方が増える中で、安心・透明・適正なプロセスを高い水準で実装している点に大きな意義があります。テクノロジーと人の力を掛け合わせ、顧客体験とコンプライアンスを両立する取り組みは、業界全体のスタンダードを引き上げるものであり、今後の広がりに大きな期待を寄せています。
日本におけるリユース市場は、環境意識の高まりやサステナビリティへの関心から年間約7%の成長を続けている。少子高齢化により相続品や遺品整理のニーズが拡大し、デジタル化による消費者の購買行動の変化も追い風となっている。そんな成長市場の中で、圧倒的な存在感を放つのが株式会社BuySell Technologiesだ。
同社は2015年よりリユース事業を開始した。グループ企業を含め、出張訪問買取では年間40万件超の実績を誇り、店舗買取でも約460店舗を展開(2025年9月末現在)。従業員数は約2,500人におよび、今期売上高1,000億 円、そして営業利益90億円を見込む。年平均30%以上という高い成長率は、独自開発のビジネスプラットフォームによるデータドリブン経営と、徹底したコンプライアンス、そして現場の優れた人材力がもたらしたものだ。今回はそんな株式会社BuySell Technologiesの徳重社長に、ThinkD単独でじっくりお話を伺った。
出身は鹿児島県で、父は普通の会社員で、その息子として生まれました。公立の小学校、中学校、高校に行き、普通の少年時代だったと思います。
いまになって振り返ってみると、強いて言うなら、リーダーのような役割を担うことが多かったと思います。何かのイベントをやる時は「みんなで一緒にやろう」と声を挙げ、集まってくれたみんなに対して私が役割分担する。気がついたら、そういうポジションにいたという感じです。

大学で東京に出てきたのですが、学生時代に先輩と一緒になって商売っぽいことをしていました。レコード屋をやってみたり、洋服屋を手伝ったり、いろいろやってみたのですが、「一生をかけてこれをやりたい!」という対象が見つかりませんでした。もちろん、レコードや洋服は好きだったものの、だからといってそれにすべてを賭けられるかというと、そうでもなかった。
一方で、将来は自分で起業してみたいとか、会社を経営してみたいという思いは、おぼろげながら持っていました。先輩と一緒に商売をやっていたのも、その気持ちがあったからだと思います。ただ、当時はどんな商売をしたいのかが明確に決まっていなかった。だから、30歳なのか40歳なのかわからないですが、やりたいことが決まったときに、ちゃんと実行できる状態をつくっておくことが大事だと考えました。具体的には、ビジネススキルや仲間が得られている状態にしておきたかった。
そこで、20代のうちに一番成長できる環境はどこだろう?と考えた結果、リクルートを選んだという経緯です。
事業上の大きな失敗や営業上の失敗は、そこまで多くないと思います。というのも、私は早く決断するタイプで、100%までじっくり考えてから行動するのではなく、60%くらいでやろうと決めて、修正しながら仕上げていくからです。リクルートでは6年ほど営業をしていましたが、月間の予算を外したのは2回くらいしかありませんでした。
個人的に失敗例として覚えているのは、人との付き合い方です。たとえば、お客様に対して期待を超えることができなかったり、アシスタントさんに思いやりのない言動を取ってしまったり、「失敗したな」と後悔したことは何度かあります。
最初はやっぱり行動量です。とにかくたくさん行動していて、1年目のころは毎日何十件も飛び込み営業をしていました。数をこなす中で、「このままじゃダメだ」と思うようになり、 飛び込みでたくさんの営業機会をつくるやり方から、提案型に切り替えていきました。
きちんとヒアリングをさせていただき、その上で提案をする。営業が終わった後にお客様に「今日の商談はいかがでしたか?」とフィードバックをいただく。これを繰り返すことで、商談のレベルを高めていきました。そうすることで、「買ってください」と言わなくても買っていただける状態をつくっていきました。

あとは、常に先を見ていたと思います。1ヶ月先、3ヶ月先、半年先から逆算して行動するようにしていました。いまのご時世だと良くないのかもしれませんが、若手のころはゴールデンウィークやお盆休みにもめちゃくちゃ仕事していましたね。先々使うであろう資料をつくっておいたり、お客様のビジネスモデルや競合企業について調べておいたり、世の中的にお休みだとしてもできることは無数にあります。今月の売上にはならないけれど、未来の取引につながりそうなことを見つけて、早いうちから仕込みを始めておく。この動きは、すごく意識していたと思います。
自発的にそうやっていました。というのも、社会人になった時に思ったことがあったんです。それは、小学校、中学校、高校、大学と過ごしてきても、社会に出た時にすべてが一度リセットされるということです。
たとえば、学生時代に人気者だったとしても、社会に出てまったく仕事ができなければその人の評価は低くなると思います。その逆パターンもあって、学生時代にパッとしなくても、仕事をがんばって成果を出せばちゃんと評価してもらえます。であれば、社会に出るまでの自分はゼロリセットして、社会人としての基礎というか、ビジネスのお作法をしっかりと身につけないとダメだと強く感じていました。
これは小さいころの経験がもとになっています。私はテニスをやっていたのですが、全国大会にも出場したことがあるものの、すぐに負けてしまいました。「なぜ勝ち上がれなかったのか」を自分なりに考えたところ、基礎を疎かにしていたからという結論になりました。
基本的な動きを何度も何度も反復練習して体に染み込ませることや筋トレなど、基礎を徹底できていなかった。ただ、ほかの人より早くテニスを始めたこともあり、テニスをやっている期間は長かったので、相手よりも少しだけ慣れていることもあり、試合にはギリギリ勝てていた。ところが、本質的には強くなっていないので、全国大会では通用しませんでした。
個人的にはここからの学びが大きくて、社会に出た時は全員が同じスタートラインだから、最初に基本的なことを徹底的にやろうと思っていました。だから最初は毎日振り返りシートを書いていました。「今日気づいたこと。明日やること」を自作のシートに書き出して、コツコツ積み上げていくというのを続けていきました。最初は目の前のことばかりでしたが、次第に「大きな成果を出すために今日仕込んでおくこと」を書き出すようになっていきました。
リクルートにはたくさんのアワードがありますが、事業で年間売上トップ10のような賞は毎年いただいていて、殿堂入りしていました。
様々な賞を獲得できてうれしかったのですが、個人的に印象深かったのは『女子会プラン』です。私が担当していた居酒屋チェーンのお客様に提案して、採用していただき、すごく流行りました。2010年の流行語大賞にもお客様が選ばれたことは、営業冥利に尽きました。
当時から「女子会」という言葉はありましたが、セレブがやるものというか、すごくキラキラしたイメージがありました。そこで 、ターゲットをずらし、女子大生やママさんが3,000円くらいで飲み食い放題できるものとして『女子会プラン』をつくるのはどうでしょう?というのが私たちの提案でした。
これがすごくヒットして、ほかのチェーン店にも波及していきました。私たちとの取引も増え、ビジネス的にも大成功しましたし、世の中に対してムーブメントをつくることもできて、営業のキャリアの中では非常にエポックメイキングな出来事でした。
私はリクルートの営業はマーケターだと捉えていて、顧客の顧客を創造することが仕事だと考えていました。この考えを体現できたので、個人的にとても印象深い仕事でした。

決め手はいくつかありますが、一番は「自分の気持ちに嘘をつきたくない」というものです。もともと、「起業してみたい」とか「会社を経営してみたい」という気持ちがありました。
リクルートで事業責任者やグループ会社の執行役員を任せてもらっていましたが、あくまでも複数ある事業のうちのひとつです。
リクルートは元来仕組みも人材も強い会社で、多くのチャンスもいただいていましたが、一方で「この恵まれた環境に自分が甘えてしまうのではないか」という恐怖心や、まだまだ伸ばせるのではないかという成長欲求を感じていました。
そこに経営者としてダイナミックに資本市場やマーケットに向き合える機会、挑戦できる機会があり、思い切って飛び込んだというのが実際のところです。
大きな役割を任せてもらったとしても、基礎が強い会社なので、基本的にこれまでやってきたことを改善し、磨き直し、テーマ設定を繰り返すことである程度の成果が出せると思いました。そうなると、自分のコンフォートゾーンは守られるじゃないですか。コンフォートゾーンを出ずに、上の立場に就いたり、事業が成長しても、「これは環境や仕組みのおかげであって、自分個人の力だけで勝負できているわけではないのではないか」と感じていました。
事業や現場への介入度が薄くなっていっても、優れた仲間や仕組みによって会社はきちんと成長していく。それ自体は素晴らしいことなのですが、だからこそ、自分が「できている」と勘違いして井の中の蛙になってしまうのではないか、という危機感がありました。もしそうなってしまうと、いざ新しいことに挑戦したくても、自分の力だけでは実行できないのではないか。そんな自分自身への強い恐怖心を抱いていました。
コンフォートゾーンから抜け出すことを考えなくなった瞬間に停滞が始まると思っていましたし、自分のキャリアにとって不正解な選択だと思っていました。だから、「コンフォートゾーンから抜け出さないと」と考えているうちに、新しい挑戦をしなくてはいけないと考えていました。
当時社長だった岩田(現 代表取締役会長)からは、「得意な部分を活かし、お互いに補い合っていきましょう」と言ってもらいました。これまで出張訪問買取がメインだったリユース市場に、データの利活用と高いレベルでのコンプライアンスを組み合わせ、サステナブルなモデルに引き上げたのが岩田です。
彼は事業開発やビジネスモデルのさらなる磨き込み、M&Aなどをこれまで通り進め、私は組織づくりや事業のマネジメントなどを推進する。そうやって「ダブルエンジンで会社を成長させていきましょう」という話でした。
私にとっては新しい挑戦で、まさにコンフォートゾーンから抜け出す絶好の機会でしたから、お引き受けすることにしたという流れになります。今となっては、管掌範囲をきれいに分けるというわけではなく、重要なところは二人で力を合わせながら、まさに「ダブルエンジン」を体感しています。
よくある100日プランじゃないですが、「最初の3ヶ月でこういうことをやろうと思います」ということを、代表に就任した4月に全社員に伝えました。
具体的には、「変えてはいけないもの」「大事にすべきもの」「変えなくてはいけないもの」「磨き込み、アップデートするもの」などを自分なりに見極め、3ヶ月後に実施する7月の全社集会で発表するというものです。
そこからの3ヶ月間で詳細の確認やさらなるインプットを進めていきました。事実やデータなどから見えていた仮説があったので、その仮説が正しいのか確認するためにいろんな現場の方に会いに行ったり、改めて情報の中身をしっかり見ていきました。
100人くらいと面談したのですが、相手の人となりを知ることができますし、私のことも知ってもらえます。現場の理解を深めると同時に、私の考えを少しずつ伝えていきました。そうすることで、7月に発表する内容がサプライズになりすぎないかを確認し、必要があれば微調整を入れていく、ということをやっていましたね。
実はそうでもなかったです。というのも、リクルートでは責任ある立場での異動を何度も経験していたからです。これはリクルートに感謝したいことというか、前職での経験が活きていることだと思います。
私は最初、ホットペッパーの営業をしていましたが、その次にウェブマーケティング支援の部署に異動しました。事業企画やプロダクトマネジメントなども担う部長のような役割でした。領域も違うし、職種も役職も違いました。
普通は、同じ 領域で職種を変えるとか役職を変える異動が多いと思います。ただ、私の場合はすべてが一気に変わりました。しかも、知り合いもいなくて、本当にひとりでの異動でした。私のことを知っている人は誰もいない。その環境で、どうやって信頼を獲得していくのか、どうやって自分のやりたいことを伝え、仲間を増やし、組織をつくっていくのか。リクルートでは、そういう状況に何度も直面してきました。

責任を果たすには成果を出さなければいけません。成果を出すには戦力と戦略のバランスが重要だと考えています。未知の領域での組織づくりを通して、戦力についてたくさん考え、多くを学ぶことができたと思っています。
戦略についても鍛えられました。判断する立場ですから、現場から上がってきた企画や施策に対して「やる」「やらない」のジャッジをする必要があります。でも、携わってきた領域も職種も違うので、私には専門性がありませんでした。
では、どうやって判断するのかという話になりますが、私の場合は「合理的、論理的に考えて筋が良いか」を追求するようにしていました。専門性を身につけようとしても時間がかかるため、「戦略として合理的か」「戦略として論理が破綻していないか」 にフォーカスしていたんです。
たとえば論理に関しては、「こういう課題があります。だからこういう打ち手でいこうと思います」というプランがあったとします。この場合、「その打ち手で得られる成果で、そもそもの課題を解決できるのか?」ということを徹底的に考えます。課題と打ち手がズレていることがあれば、再考を依頼します。
こういうことを、めちゃくちゃ意識して仕事をしていました。論理性を磨くための社内研修にもどんどん参加して、研修で得られたノウハウを現場で試し、少しずつ鍛えていきました。
「どうせ専門的なことはわからないだろう」と変なプランが上がってくることもありました。でも、言葉が悪いかもしれませんが、私を言いくるめようとしても「この部分がおかしくないですか?」と鋭く切り込むので、おかしな戦略にGOサインを出すことはなかったです。そういうことを続けていると、門外漢だったとしても「この人はちゃんとしている」という評価を得ることができ、信頼を積み重ねていくことができました。
ウェブマーケティング支援の部署の次は教育事業に異動しましたし、その次は経営企画や人事責任者を任せていただきました。いずれも、これまでのやり方が通用しない環境でしたが、戦力と戦略のバランスを意識しながら成果を出すことができました。
BuySell Technologiesは総合リユース企業で約10年の歴史を持つ会社です。リユース業にはいろんな形態がありますが、私たちのメインは大きく2つになります。
まずは、出張訪問買取です。問い合わせをくださったお客様のご自宅に訪問させていただいて、不要なものを買い取りさせていただき、それを再販売するモデルです。グループでは出張訪問件数は年間で40万件超になります。もうひとつは店舗買取で、店舗にいらっしゃったお客様から不要なものを買い取り、店舗で販売しています。屋号は多少異なりますが、現在およそ460店舗を展開しています。
おかげさまで事業は順調に成長していて、リユース市場は年平均成長率7%と言われているなかで、私たちは30%以上を記録しています。
会社としては『優れた人と新たな技術で、循環型社会をリードする』というビジョンを掲げています。『優れた人』というのは、お客様への配慮や思いやりを大切にし、専門的な知識と丁寧な提案力を持って、良い顧客体験を提供できる人のことを指します。
ご自宅に誰かを招き入れる時や、自分が大切にしてきたものを 手放す時には、何かしらの不安を感じるものだと思います。「二束三文で買い叩かれるのではないか」という懸念もあるはずです。だからこそ、訪問する私たちには、真摯な姿勢や専門的な知識が欠かせません。そういった人としての魅力を磨き続けていくために、『優れた人』というビジョンに落とし込んでいます。
次に『新たな技術』ですが、そもそもリユース業界は歴史が古く、あまりテクノロジー化が進んでいませんでした。そこにテクノロジーを持ち込み、データを活用したオペレーションを実装しています。
出張訪問買取でも店舗買取でも、非常に多くのオペレーションが発生します。問い合わせに対応するインサイドセールスの仕組み構築や訪問スケジュールの管理、スピーディーで正確な査定を行うための仕組み、買い取った着物や骨董品などを倉庫に送るための物流システム、販売後の配送システムなど、様々です。
私たちは買い取りから販売までを一気通貫でデータ管理する『Cosmos』というプラットフォームを開発し、正確性の担保や生産性の向上に取り組んでいます。
このように優れた人と新たな技術を活用することで、循環型社会をリードしていきたいと考えています。駅前にある買取店という規模ではなく、リユースを産業として大きく育てていくための主要プレーヤーとして、業界を牽引していきたいというのが私たち の考えです。
そうですね。これまでのリユース業界はそこまでテクノロジー化が進んでいなかったかもしれません。労働集約型の働き方なので、テクノロジーを活用することで生産性の向上につながると考えています。あとは、データに基づいて査定を行うため、属人化の防止や透明性の向上にも期待ができます。
『Cosmos』は私が社長になる前から進んでいるプロジェクトですが、現在はある程度の仕上がりが見えるところまで来ています。今後は、現場での活用を続けていき、磨き込んでいく段階です。
テクノロジーに関してこれから注力していくのは、やはりAIです。査定のAI化が実現すれば、より満足いただける接客サービスに時間を割けるようになるはずです。ヒューマンスキルを磨くことで、お客様の不安を和らげることができると思いますし、その結果、引き続き私たちのサービスをご利用いただけたり、他のお客様をご紹介いただけたり、事業にとって大きくプラスに働くと考えています。
コンプライアンスの観点でも、データ管理による事業の透明性向上は非常に重要です。これらの理由から、テクノロジーの活用をさらに加速さ せ、データドリブン経営を強化していきたいと考えています。
ひとつ例を挙げるとすれば、出張訪問買取における再訪率です。お客様から再訪依頼がくるということは、初回のやり取りで信頼をしていただき、満足いただいたということです。そこで、再訪率が高いメンバーのデータを抽出して「なぜ高いのか?」を分析し、言語化・汎用化することで、全体の中央値を少しずつ引き上げる取り組みを続けています。
2年ほど前は全体で1〜3%ほどの再訪率でしたが、コツコツと取り組みを続けることで、現在では20%になっています。
私たちはお客様に良い体験を提供したいので、すべての出張訪問先に専門チームがフォローコールをして満足度調査をしています。「ずっと大切にしていたものを買い叩かれた」とか「対応が雑だった」と思われたら嫌ですし、そうならないように入社時から社内教育を徹底しています。フォローコールでお客様の声をしっかりと拾いつつ、出張訪問買取に伺うメンバーはお客様の気持ちに寄り添い、満足度を高めながら仕事をしてくれているので、手前味噌ですが一般の出張訪問サービスとは次元が違う顧客対応をしていると思います。
これは、何年もかけてコンプライアンスの徹底と顧客満足度の向上にこだわってきた、現場メンバーの努力の賜物だと思います。これまで頑張って積み上げてきた実績や信頼を、さらに伸ばしていくことが私の役割だと考えています。

どういう企業とご一緒するかを検討する段階では、その会社が単独で事業を伸ばしていることが大事なポイントだと思っています。
その上で、ビジネスの優位性や「営業利益率が低い」など他社と異なる点、逆に伸びしろになる部分などを最初の段階で見極めるようにしています。
M&Aの話を始めてからは、お互いに信頼関係をつくっていくことを非常に重視していると思います。「グループインしてもらうからには、私たちのやり方にすべて合わせてください」というつもりはまったくありません。その会社の良さが必ずあるので、それを活かしながら一緒に成長していきましょうというスタンスです。
基本的には、グループインした会社の体制を最初から大きく変えることはないので、M&Aをきっかけにたくさんの退職者が出ることはありません。もちろん、人材の行き来は行います。グループインした会社で活躍してきた人に私たちのところに来ていただき、さらに活躍してもらうとか、その逆もあります。ただし、すぐに、大きく変えるということはしないです。お互いの信頼関係がなければ、この先一緒に頑張っていくことが難しくなりますから。
M&Aは重要な戦略オプションとして、常に経営陣の頭の中にあります。シナジーが生まれそうな案件があれば、会長も、私も、CFOも、経営企画のトップも、経営陣全員でその案件と向き合います。循環型社会をリードする存在になるためにも、全員に共通している意識だと思います。
執行役員や本部長はリファラルが多いです。ただ、個人的に仲が良いから誘うことはなく、あくまでも目的ありきで考えています。つまり、会社としてやりたいことがあり、その案件を任せられる人なのかどうか。そして、その人が新しい挑戦の機会を求めているかどうか。これらが噛み合った時に、入社してもらっています。
そのため、まずはいろんな人に声をかけるようにしています。しばらく連絡を取っていなかったとしても「こういう案件があるけど、どうですか?」という感じでフラットに声をかけます。
いまはリファラルが多いですが、今後は変わっていくかもしれません。というのも、会社のステージが変わってきているので、状況に合わせて採用のやり方も見直していく必要があると考えているからです。
私がこの会社に入社した時は、売上が420億円くらいで、利益は27億円でした。今期は売上1,000億円、利益90億円を見込んでいます。明らかに会社のステージが違うので、活躍する人のタイプも変わってくるのだと思います。
私たちはこれから日本で誰もが知る企業を目指していきます。そのためのステップとして、数年後の売上数千億円を目標に掲げ、全速力で頑張っています。この状況を本気で楽しめたり、この状況で価値を発揮できる人を、新しい仲間としてお迎えしたいと考えています。
売上をゼロから1億円にする時と、1億円から10億円にする時、10億円を100億円にする時で、人や組織に求められる要件は異なりますよね。だから、それぞれのステージに合った人を採用し、組織を変化させていくことが重要だと思っています。期待されている成果を出して、「もっと大きな挑戦がしたい」と思えば引き続き頑張れば良いですし、「同じようなステージをもう一度 経験したい」と思えばその環境を探して飛び込めば良いと思います。
何が言いたいかというと、目的に合わせて役割を決めれば良いし、役割を決めたのであれば全力で向き合えば良いということです。

私はいつも「いま」を起点にせず、ゴールから逆算して考えるようにしているのですが、圧倒的に人が足りないです。
たとえば、2028年には売上や利益を倍にしたい。そのためには、どのような能力を持った人が何人必要なのか?という具合に考えていくのですが、経営合宿で洗い出してみたら、重要なポジションが60人くらい足りないという結果になりました。
現状で満足しているのであれば、いまのままでも良いのですが、私たちは現状の1,000億円規模に満足することなく、5,000億円、1兆円と さらにその先を目指しています。そこから逆算すると、優秀な人材が全然足りていないです。
抽象的になってしまうのですが、やはり自分で手を動かしたり、まわりや組織を動かせる人が良いですね。たとえば、大企業でキャリアを重ねてきて、いまは判断する仕事ばかりという人は、ちょっと違うかもしれません。自分自身がちゃんと動けることが大事だと思っています。
また、ちゃんと動けるとしても、利己的であったり、他者から多くを得ようというテイカータイプの人は会社に馴染まないと思います。そういうタイプの人は役職者にしてはいけないと考えていますし、そもそも採用しないようにしています。
私たちはお客様の満足度を非常に大切にしていますし、リユース業界をリードする存在を目指しています。そんな私たちが利己的な考え方だと、お客様に迷惑がかかるかもしれませんし、業界に良くない影響を与えてしまうかもしれませんから。
綺麗事かもしれないですが、「お客様のために」とか「世の中のために」という気持ちをこれからも大切にしたいので、人の見極めはしっかりやっているつもりです 。
そうですね。第3四半期決算で発表したグループ再編とブランド統合(※)は、未来から逆算した上での判断です。
(※)2025年11月14日に発表した2025年12月期 第3四半期決算において、2026年1月以降のグループ組織再編を発表。同時に2025年11月以降のブランド統合も発表した。
グループ再編は、機能統合による生産性向上や資本効率の最大化を目的にしています。グループ各社に散らばっている機能を集約し、マネジメントを強化することで、経営を高度化していきたいと考えています。
今後もいろんな会社のグループインがあると思います。その都度必ずグループ再編するわけではなく、単体で事業が伸ばせるのであれば再編せずにそのままで良いと思っています。機能や役割が重複していないかなどを検討し、ケースバイケースで判断していけば良いと考えています。今回の判断は、来期以降に向けてもう一段事業を成長させるためには、グループ再編をした方が合理的だと考えたからです。

ブランドについても同様です。すべてを『バイセル』に統一するつもりはなく、お客様の層や立地条件などが近しいものをまとめることで、広告出稿やマーケティングの面でメリットを享受できると考えています。
逆に従来のまま残すブランドは、『バイセル』とは顧客やチャネルが異なるため残す判断をしました。こちらも、あくまで合理的に決めています。
いずれも、リユース業界でナンバーワンになるために、その時々でやれることをどんどんやっていくというスタンスです。

グループ再編は、私たちの経営のレベルが高度化しているからこそできることだと思っています。ベンチャーのチャレンジ精神を残しながら、大企業への階段を歩み始めているという言い方もできるかもしれません。
従来の14社を5社にまとめるのも、通常の感覚であればかなりの難易度だと思います。でも、その判断ができるということは、それだけ私たちの経営がちゃんと成長できているからです。私が入社した2024年4月と比較すると、経営会議での議論の質は明らかに違います。アジェンダマネジメントやミッションマネジメントのレベルも上がっ ています。大きなチャレンジができる状態をみんなでつくってきたので、さらなる成長に向けて今後もアクセルを踏んでいくつもりです。
今後の成長は、ここ数年でどれだけのチャレンジができるかにかかっていると思います。私たちにはチャレンジできる風土がありますし、チャレンジを成功に導く高度人材も少しずつ揃ってきました。歴史がある大手企業では、ステークホルダーも多く、慎重な判断が求められる局面が多いと思います。一方で、私たちの現在の規模やフェーズだからこそ、スピード感を持って大胆なチャレンジに踏み切れる余地が大きいと感じています。このような“状態の良さ”は、いまの会社の魅力だと思っています。
1,000億円、1兆円、その先の企業へと駆け上がっていくプロセスを味わいたい人には、刺激的でおもしろい環境だと思っています。現状に酔うことなく、とにかく早く次の一手を仕掛け続けていこうと思っています。大きな企業で働きたい人ではなく、当事者として大きな企業を一緒につくっていきたい人にとっては、すごく良い経験ができる環境だと思います。

まずは、やはりミッション・ビジョンへの共感だと思います。ミッションである『人を超え、時を超え、たいせつなものをつなぐ架け橋となる。』、そしてビジョンである『優れた人と新たな技術で、循環型社会をリードする。』、これらを実現するには、やはりナンバーワンになる必要があると思っています。
お客様に満足いただけるサービスを提供し、高いレベルでコンプライアンスを徹底する。そんな私たちがナンバーワンになれば、それが業界のスタンダードになると思います。そうすれば、大事なものを次の世代につないでいくことが、もっともっと当たり前になると思います。それは、世の中にとってもすごく良いことだと考えています。
また、世の中が良くなれば、そこに関わっている私たちの社員が、親や友人に「バイセルで働いているんだよ」と自慢できるじゃないですか。自分の仕事を自慢できるってすごく幸せなことだと思いますし、頑張ってくれている社員には幸せになって欲しいです。
そのためには、いま以上の大きな存在感を手に入れる必要があると思っていて、だからこそナンバーワンには本気でこだわりたい。いま上場企業は4,000社ほどあると言われていますが、そのなかではまだまだ端っこの存在です。そうではなく、資本市場のど真ん中で存在感を出せるようにならないといけません。
その頃には、リユースはもっと身近なものになっていると思います。地球の資源問題や環境負荷のこともありますから、新しいものをどんどんつくって大量に消費していく社会は、少しずつ変わっていくはずです。そうなったら、リユース業界は世の中的に重要な位置にいるんじゃないかと考えています。そんな未来を思い浮かべているので、モチベーション高く全力で頑張れているのだと思います。
そうですね。確か、ユニクロの柳井さんがおっしゃっていた言葉のなかに「前始末」というのがあるのですが、それがすごく好きです。後始末じゃなくて、前始末。先を見越してどんどん仕込んで、事前に手を打っていく。
たとえばですが、この夏はとても暑かったですよね。でも、いろんな予報を見ていると、酷暑になることは事前にわかっていました。そうするとお客様は外出が億劫になるので、店舗買取に影響が出るかもしれない。だから、早くから出張訪問買取の再訪率を上げる施策を動かしていました。ほかにも、来期の計画はすべて準備が終わっていますし、再来期のために新規事業の仕込みも始めています。
こういう感じで、前始末をどんどん進めていく。これはリクルートにいた時からずっと心がけてきたことです。
あと、最近好きになった言葉に、新渡戸稲造がゲーテの言葉から引用した「Haste not, Rest not」があります。「急がずに、でも休まずに」という意味で、知った時にすごく大事なことだと感じました。急いで焦ってしまうと良い判断ができないですし、だからといって休んでばかりだと前に進めない。だから私は、焦ることなく、ただし全力でやることを大事にしたいと思っています。
リユース業界でナンバーワンになること。この目標を達成するために、前始末の観点でどんどん手を打っていく。ただし、焦らない。でも、休まない。このスタンスで、緊張感を忘れずに頑張っていこうと思います。


株式会社ディプコア 代表取締役CEO
インタビューを通して強く感じたのは、徳重社長の言葉や姿勢から一切の驕りや慢心が見えないことです。 1兆円やその先という大きなゴールを掲げながら、目の前の「前始末」を丁寧に積み上げていく。その実直なスタンスこそが、強いリーダーシップの源泉なのだと感じました。 どれだけ成長しても調子に乗らないその姿勢があるからこそ、仮に事業が逆風にあったとしても、過度に落ち込むことなく、冷静に立て直しへ向かえるのだろうと感じます。常にニュートラルであろうとする生き方には、経営者として多くの示唆がありました。

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