
市場づくりとプロダクトづくりを同時並行。投資家に「S級の経営難易度」と言われる中で挑戦を続ける、RABO伊豫愉芸子の覚悟。
2024.11.22 公開
2024.11.22 公開
企業名:株式会社RABO
設立:2018年
事業内容:「猫の生活をテクノロジーで見守る」Catlogの開発
レンティオ株式会社 代表取締役社長
プロダクトへの執念が本当にすごいです。ふざけてるのかな?と思うくらい徹底していて、本当に尊敬します。弊社もユーザーに対して向き合う姿勢、プロダクトへのこだわりは負けていないと思っているのですがRABO社はDAY1から今に至るまでその情熱が全く変わっていないので本当にすごいと思います。web会議中に猫たくさん出てくるし、猫に様付けないとちゃんと注意されるし、ところどころ「やっぱりふざけてるのか?」と思うのですが大真面目に全力投球されていてすごいです。
小さいころから生き物が好きで、小学生のときは学校からの帰り道で見つけた動植物を家に持って帰るような子どもでした。生き物が好きなまま大きくなり、海の生き物に興味があったので、東京水産大学(現 東京海洋大学)に入学しました。そこで大学卒業後、そのまま大学院に進み、合計6年間ずっと海の生き物や海について学んでいました。
大学3年のときに、新聞でバイオロギングというものを知りました。動物の体に小型のセンサーを装着して行動データを取り、人間では観察できない動物の行動や生態を明らかにする科学分野です。「世の中にはこんなに楽しい研究があるんだ」とすごく衝撃を受けました。
そのままの勢いで、新聞記事に載っていた国立極地研究所に「話を聞きに行きたいです!」と連絡したんです。突然の連絡だったのに 快諾していただけました。いざ訪問してみると「明日から一緒に研究しますか?」みたいな流れになり、そのままバイオロギングの研究を始めることになったんです。
大学時代はペンギンを研究し、大学院のときはオオミズナギドリという野生の水鳥を研究していました。水鳥の研究を例にすると、だいたい無人島になるのですが、鳥が生息している島に行き、テントを張って、研究をしていました。キャンプと言えば聞こえはいいのですが、野良生活のようなことをしながら、目当ての鳥の巣穴を探して、調査するための仕掛けをセットして。夜帰ってきて朝出かけていくという習性の鳥なので、私も同じ生活リズムにして。島で暮らしながら鳥の生活を研究する。そんなことを2年間やっていました。
この研究が本当に楽しくて、博士課程に進むか就職するか、進路についてはとても悩みましたね。いろいろと考えた結果、新卒として企業に就職する機会は限られているので、「一度社会に出てみよう」と就職することを選びました。
ある程度社数を絞って就職活動をしていたのですが、そのときに興味を持った会社がリクルートです。人間の行動を分析して、どのようなプロセスになるか仮説を立てて考えて、そこから逆算してプロダクトやサービスをつくっていると感じて、バイオロギングと似ている 部分があると思ったからです。
リクルートでは、これまでの海洋動物から人間に対象を切り替えて、「どんな行動パターンを取るのか」を考えながら企画やサービス開発の仕事をしていました。当時は「起業しよう」とはまったく考えてなかったです。ただ、生き物や動物のことは変わらずに大好きでしたし、バイオロギングへの思いは頭の隅のほうにずっと存在し続けていました。
リクルートで10年くらい仕事をしたころ、「違う世界も見てみたい」と思って転職したんです。スタートアップ企業への転職だったのですが、実際に働いてみたことで私の中でスタートアップが身近な存在になりました。
自分たちで事業を考えて、実際に動かして、会社を成長させていくプロセスは、リクルートも他の会社ももちろん同じですけど、スタートアップの場合は「自分たちでやる」感じがより一層強いと思います。そういう経験もあり、起業についても考えるようになりました。
同じくらいのタイミングで、現在のCatlogシリーズのようなプロダクトのイメージが頭の中にぼんやりと生まれてきました。そこからリクルート時代に培った経験が活きてきたんです。何が課題で、その課題を感じている人はどれくらいいて、課題を解決するにはどのようなアプローチがありそうなのか。そして、私の頭の中にあるイメージは、本当に課題解決に つながるのか。そういうことをグルグルと考えつつ、半年くらいかけていろんな調査をしました。結果、「これは事業としてやる意義がある」という結論になり、2018年の2月22日(猫の日)にRABOを起業したという流れです。
Catlogが生まれた背景は、「家族である猫様のことをもっと知りたい、わかりたい」という気持ちにあります。
中学生のときから実家で3匹の猫様と一緒に暮らしていました。結婚して、実家を出てからはしばらく動物がいない生活を送っていましたが、ご縁があって2016年にブリ丸(♂)を家族の一員として迎えることになりました。
もともと猫様と一緒に暮らしていたので飼い方はわかるものの、改めて猫様との生活を始めてみるといろいろと不安な気持ちが出てきたんです。それは、「なんだかいつもと様子が違うな。どこか具合が良くないのかな」だったり「もし調子が悪くても私が気づけなければ取り返しのつかないことになってしまうんじゃないか」という不安です。家族としてもっと大切に接したいのに、言葉を使ったコミュニケーションができないから、どうすればいいかわからない。大事な家族なのに、なぜこんなにも見えない時間が多くわからないことが多いのだろう、そういうことを感じていました。
そして思い出したんです。「私は動物の見えない行動を見えるようにするための研究をしてきたじゃないか」「リクルートでサービス開発や事業開発をやってきたじゃないか」と。バイオロギングとサービスづくりを掛け合わせることで、自分の中にある不安を解決できるんじゃないか。同じようなことを感じている世の中の飼い主さんにとってのソリューションになるんじゃないか。自分の中にあった個別の経験がつながった感覚がありました。
そこから、調査や分析に入ります。バイオロギングは、マッコウクジラや鳥、マンボウや亀など、いろんな動物を対象に研究が行なわれています。それぞれ行動パターンや生活習慣が違うので、動物の種類によってログを取るためのセンサーが異なったり、得られたデータを解析するときの手法が異なるんです。この前提を置いたうえで、猫様の行動を詳細に把握するには首輪型のセンサーが一番適しているだろうという仮説がありました。
大学の恩師のところにも相談に行って、「こういう事業を始めようと思っています。そもそも海洋動物を中心に進められてきたバイオロギングは、陸上動物に対しても可能でしょうか?どう思いますか?」とアドバイスを求めたり。当時、研究で使っていたセンサーを借りてきて、ブリ丸(♂)につけてみたり。いろいろと試してみたんです。その結果、持っていた仮説の通りで、イエネコでも首輪型のセンサーにすることで行動のログが取れて、行動の分類ができることがわかりました。
首輪型のセンサーに加えて、ボード型のプロダクトも開発しました。猫様は泌尿器系の疾患にかかりやすいのですが、その懸念がないかを把握するためのものです。おしっことかうんちといったトイレの情報を詳細に把握することができます。
そこからは試作品を使い、実際にデータを取っていったんです。イエネコという種は複雑な行動をする動物なので、高い精度で行動解析できるかはやってみないとわかりませんでした。そこで、バイオロギングの知見とAIの技術をフル活用して、テストを重ねていったんです。「このレベルをクリアできたらローンチしよう」と目標設定し、開発着手から1年後の2019年に一般販売を開始したという流れになります。
猫様に特化したものはほとんどなかったと思います。2016年とか2017年ごろに欧米を中心にいわゆるペット向けデバイスが出てきましたが、メインは結果的に犬向けのものでした。トラッキングするためにGPSがついたものが多かったと思います。
猫様と犬はコンパニオンアニマルとして人間と長らく一緒に暮らしている動物とはいえ、生物学的にも、行動学的にも大きく異なります。それゆえ飼い主さんのインサイトも違うはずだと考えていました。そのため、大きく「ペット」というカテゴリーで考えるのではなく、種別や飼い主さんのインサイトに沿ったものにしよう。そのほうが、プロダクトとしては芯を食ったものになるだろうという意図が最初からあったんです。まずは猫様にフォーカスすることが、結果近道になるという考え方です。
私たちは会社として「すべては、猫様のために。」という言葉を掲げています。Catlogシリーズはまさにこの言葉の通り、猫様のためだけにつくったプロダクトになります。